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ロスを見逃し本末転倒 次世代エネルギーの水素で報じられない「不都合な真実」 (1/3ページ)

 次世代のクリーンエネルギーとして「水素」が注目を集めることが多い。元静岡大学教員の松田智氏は「水素は製造過程でかなりのエネルギーをロスしており、二酸化炭素も生成される。燃やしても二酸化炭素が出ないといって喜ぶのは本末転倒だ」という--。※本稿は、松田智ほか『SDGsの不都合な真実』(宝島社)の一部を再編集したものです。

 マスコミは水素の問題点に触れない

 最近よく目にするテレビCMに、大手石油会社の「ゴリラに水素(H2)の効用を教える」ものがある。いわく「水素は燃やしても二酸化炭素(CO2)を出さない、クリーンなエネルギーなのよ」、と。

 他にも新聞雑誌等で「CO2を排出しない次世代のエネルギーとして期待される水素」「水素は脱炭素の切り札」等の言葉が躍り、今回の東京五輪では水素で動く燃料電池バスが選手役員等を運んだ(聖火の燃料も水素だと宣伝していた)。最近示された政府の計画でも、将来的に火力発電の1割を水素とアンモニアの燃焼で賄うとなっている。

 水素の利点として、(1)燃やしてもCO2を出さない、(2)いろんなものから作ることができる(原料の多様性)、(3)貯蔵が効く、の3点が主に挙げられる。このこと自体は、そのとおりである。ウソはない。

 しかし、これらは物事の一面にすぎない。水素は本当に「脱炭素社会構築の切り札」なのだろうか? 実は、これから述べるように、水素には克服すべき問題点が山積している。にもかかわらず、水素礼賛マスコミ記事の大半は、水素が抱えている問題点にほとんど触れていないのである。

 一次エネルギーと二次エネルギー

 まず最初に、エネルギー問題を考えるうえで必須の基礎知識に触れたい。

 それは、エネルギーには一次と二次(またはそれ以上)の2種類があり、まったく違うものであるということ。一次エネルギーは大別して3種類あり、化石燃料(石油・石炭・天然ガスなど)と原子力、それに自然エネルギー(水力・風力・太陽光・地熱その他)である。これらは直接的なエネルギー「源」である。エネルギーの統計を見ても、供給源としては、この3種類しか出てこない。なお、現在の日本では、一次エネルギー供給量の9割近くが化石燃料であることは押さえておこう。

 これに対し二次エネルギーは、一次エネルギーを加工して得られるもので、具体的には電力、石油製品(ガソリン、軽油、灯油など)、都市ガス(天然ガスまたは石炭から製造)などである。水素もこの部類に属する。

 これらはすべて天然資源としては産出されず、一次エネルギーを原料として生産される「工業製品」に近い。すなわち、「一次」はエネルギー「源」であるのに対し、二次以下は「媒体(運び屋)」である点が、根本的に違う。

 水素は二次エネルギーであり、決してエネルギー「源」ではないことを、最初に確認しておきたい。実は多くのマスコミ記事で、この区別ができておらず、水素をあたかもエネルギー「源」であるかのように扱うものが多数見られるが、完全なる誤解である。この区別もつかないような執筆者・論者には、エネルギー問題を議論する資格はない。

 水素を何から得るのか?

 その1:水蒸気改質による方法

 水素は二次エネルギーなので、「何からどのようにして得るのか?」は常に本質的に重要な問題である。電力がさまざまな方法で得られるのと同様、水素も種々の方法で入手できる。

 たしかに、水素はいろんなものから作ることができる(原料の多様性)。しかし現実的な選択肢としては、天然ガス(の中のメタン:炭化水素)か水(電気分解か熱分解)しかない。実際、政府の水素供給計画でも、この2種類だけが検討の対象になっている。

 現在、最も安価に水素を得る方法は、天然ガス中のメタン(CH4、一般には炭化水素。石油・石炭などでも可能)を「水蒸気改質」という方法で処理するものである。化学が苦手な方は読み飛ばしても構わないが、参考までにメタンの水蒸気改質を化学反応式で書くと以下のようになる。

 CH4+H2O→3H2+CO(1)

 CO+H2O→H2+CO2(2)

 +)CH4+2H2O→4H2+CO2(3)

 これらの化学式が何を表すかというと、メタン(CH4)から水素(H2)を得る反応は(1)と(2)の2種類があり、足すと結果的に式(3)になる。すなわち1分子のメタンと2分子の水が反応し、4分子の水素と1分子のCO2が生成する。メタンを燃やした場合にも、炭素(C)はCO2に変わる。つまり、メタンを水蒸気改質して水素を製造するときには、メタンを燃やしたときと同じ量のCO2が生成する。

 この例に限らず、メタンその他の炭化水素やバイオマス(木材・下水汚泥等の生物資源)など、炭素を含む物質から水素を製造する場合、含まれる炭素はほぼ必ずCO2として排出される。その理由は、炭化水素やバイオマスを形成している炭素(C)-水素(H)結合をブチ切らないと水素(H2)が作ることができないため、炭素(C)を何か強い酸化力で引きつけないといけないからである(その酸化剤は通常、酸素(O)が一般的。だから結果的に必ずCO2が出てくる)。

 最近マスコミ等でよく取り上げられる、豪州からの褐炭水素、UAEからの天然ガス水素、または牛糞や下水汚泥からの水素等も全部同じだ。これらはすべて、結局はメタンガスを作り、それを水蒸気改質して水素を得ているので、原理的に同じ方式であり、製造段階でメタンを燃やすのと同量のCO2が排出されるプロセスである。

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