プラスとマイナスの空気イオンが充満した環境では、ゲームのパフォーマンスが上がる-。独自の空気清浄技術「プラズマクラスター」で知られるシャープと九州産業大学人間科学部の萩原悟一准教授らの研究によると、プラスとマイナスのイオンを使って環境を変えることでプレイヤーの脳が活性化され、任天堂の人気ゲーム「マリオカート」のレース結果が向上したという。コンピューターゲームの腕前を競うeスポーツ分野での応用も期待される。研究論文は、「eスポーツ」などデジタル領域の学術論文を掲載する電子ジャーナル「Journal of Digital Life」(ジャーナル・オブ・デジタル・ライフ)で公開されている。
世界的に注目される「eスポーツ」
多くのスポーツイベントや大会が延期や中止を余儀なくされた新型コロナウイルス禍で、盛り上がりを見せたのがeスポーツ。テレビゲームでの対戦をスポーツと捉えて行われる競技を指す。キャラクター視点で武器などを手に戦うFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)をはじめ、格闘ゲームやレースゲーム、カードゲームなどジャンルは多岐にわたり、競技人口は世界で1億人を超えるとも言われる。
近年はeスポーツに現実的な身体運動の要素を加えた「バーチャル(仮想)スポーツ」(VS)も注目され、仮想空間で自転車のロードレースを戦う大会なども各地で開催されている。国際オリンピック委員会(IOC)も「五輪プログラムへの追加を検討する」と提言しているほどだ。
「eスポーツ後進国」とされてきた日本も近年、急速に普及が進んでいる。ゲーム総合情報メディア「ファミ通」が2021年4月に発表した「日本eスポーツ市場規模」によると、2020年の市場規模は前年比109%の66.8億円に伸長。基本プレイ無料のFPS「VALORANT(ヴァロラント)」の登場や、「Shadowverse(シャドウバース)」「PUBG」といった人気タイトルのオンライン大会の開催などで市場が拡大。2024年までに毎年約29%成長するとの予測もある。
そんなeスポーツのパフォーマンスを向上するには…。シャープと九産大の萩原准教授らの論文では、その能力を向上させる手段として「空気イオン」に着目したという。
「空気イオン」が身体におよぼす影響
自然界に存在する小さな粒子「空気イオン」は、空気中の正(プラス)または負(マイナス)に帯電した分子や原子。大気の浄化や脱臭などの能力があるとされるが、近年では空気イオンが「人の感情」に与える影響も明らかになってきている。例えば、高密度のマイナスイオン環境では、うつ状態が軽減されることが分かっており、ストレスの低下や幸福度の向上などへの影響について、現在も研究が進められている。
この空気イオンのはたらきは、スポーツ選手のパフォーマンスにも影響するともみられている。
論文では「空気イオン環境下でのトレーニングは、アスリートの感情状態にプラスの影響を与え、それがスポーツのパフォーマンスに関係する可能性があると考えられている」と研究の背景を説明。その上で「正負のイオンの環境」がeスポーツのパフォーマンスにも影響を与えるのか検討している。
マリオカートのタイム測定
実験は、大学のeスポーツチームに所属する男性10人を対象に実施。プラズマクラスターを使用してプラスとマイナスのイオンを実験テント内に充満させた場合と、そうでない場合とで比較した。家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の「マリオカートデラックス8」を10人でプレイし、その走行タイムを測定したのだ。
走行コースは「マリオカートスタジアム」で、レースモードは同じコースを3周する「タイムアタック」。車のクラスは150ccに設定し、ドライバーのキャラクターは被験者が選択した。この実験の結果、プラズマクラスターイオン下では、そうでない場合と比べ、レース速度で測定したパフォーマンスが2秒程度上回ったとしている。
すでに別の研究では、両イオンが認知パフォーマンスに与える影響は検討されており、eスポーツと密接な関係があるとされる「推論能力」「知覚速度」について、高濃度の方が低濃度よりもが優れた測定値を記録したとの研究結果も出ている。
萩原准教授らは「今回の研究では、プラスとマイナスのイオンを使って環境を変えることで、脳の活性化とともにeスポーツのパフォーマンスが向上することを示した」と結論付け、実際のゲームの記録にも寄与したことを強調。今後は「プラスイオンとマイナスイオン、あるいは両方のイオンの組み合わせが、eスポーツのパフォーマンスにどのような影響を与えるのか、そのメカニズムの解明が望まれる」とした。
◆論文の詳細はこちらから
・Effect of positive and negative ions in esports performance and arousal levels