「動き」に応じてデータ圧縮
そこでFree-Dが採用したのがモーション(動き)を軸に映像を圧縮する技術だ。デジタル動画は古い映画フィルムのような仕組みだが、すべてのコマ(フレーム)に背景や人物といった「完全な情報」が盛り込まれている必要はない。変化が小さい背景の一部のデータを前後のフレームで使い回しつつ、変化があった部分と合成して全体的なデータ量を小さくすることができる。
既存の映像圧縮技術は時間を軸にしており、データ量の大きい「完全な情報を持つフレーム」が一定の間隔で並び、その間を圧縮によってデータ量を小さくした「生成されたフレーム」が埋めることになる。しかしFree-Dの独自技術では、映像の動きの大きさにあわせて適切に「生成されたフレーム」を配置し、既存技術以上に「完全な情報を持つフレーム」の数を削減することができる。
この仕組みについて営業技術部の小野瑠人さんは「極端なことを言えば、同じ風景を映し続ける映像と、1枚の画像との間に大きな意味の違いはないのです」と説明する。結果的に、再生時間やフレーム数が同じ動画を圧縮しても、データ量が大きい「完全な情報を持つフレーム」が少ないFree-Dの動画の方がファイルサイズが小さくなるわけだ。
昨年8月、Free-Dは公共ブロードバンド無線システムを開発した原田博司京大大学院教授の研究グループと共同で4K映像を広域配信する実験を行ったと発表。既存技術の3分の1から5分の1のデータの転送量で、画質の劣化はほとんどなかったという。同年11月には大分県での音楽ライブを4Kで中継した。4Kで中継する場合は映像圧縮で約3秒のタイムラグが発生するというが、災害後の被災地の様子をリアルタイムで伝えるのには誤差の範囲だ。
さらに今年8月には総務省から実験試験局の免許を取得し、独自で調査や実験を行えるようになった。南海トラフ巨大地震が危惧される中、今月中には静岡県磐田市にて、福田(ふくで)漁港から7キロメートル先の市役所に映像を送る実験を光コーポレーション(静岡)と協力して行う予定だ。
自治体などが衛星通信に頼らず“自前”の無線システムで4K映像を送れるようになれば、ランニングコストの軽減だけでなく、国の機関などが被災地の映像を解析して状況判断がしやすくなるというメリットもある。横内社長は「警察や消防などの日常業務においても役立つインフラになりえると考えています。会社一丸となって開発を急ぎます」と意気込む。
同社の映像圧縮技術と新しい無線伝送システムの融合を、エンターテインメントを含めた幅広い分野で活用したいという。