岸田文雄首相が4日に就任して以降、株式市場が新政権への評価を決めかねている。就任5営業日までの日経平均株価の騰落率は2.5%の下落で、小泉純一郎首相就任以降10回の首相交代の中では3番目の悪さ。一方、このところの株価は海外要因にも左右されており、株式市場が岸田政権に落第点をつけたとは言い難い。ただし、富の分配を強調する岸田首相に対しては、税制面などで投資家心理を冷やしかねない政策を取るとの不安もくすぶる。市場では政治の方向性は来年夏まで見えてこないとの見方もあり、評価は当面、保留されたといえそうだ。
一時は1200円超値下がり
「成長を目指すことは極めて重要であり、その実現に向けて全力で取り組みます」。岸田首相は8日の衆院本会議で行った就任後初の所信表明演説で、低成長が続く日本経済の立て直しへの意欲を示した。
しかし株式市場の岸田政権への対応は定まりきっていないようだ。
このところの平均株価を岸田首相就任直前の営業日(1日)の終値と比較すると、就任3営業日目となる6日の段階で1200円超下落。その後、盛り返しはしたが、5営業日目にあたる8日の終値でも約722円の値下がりだ。下落率は2.5%で、2001年4月の小泉氏就任以降の首相交代では、麻生太郎氏、野田佳彦氏の就任後に次ぐ悪さだ。
一方、株価の動きは岸田政権への期待感だけを反映したものとはいえない。投資家心理は原油高による世界的なインフレ懸念や米国の連邦政府の債務上限問題、中国の不動産開発大手の過剰債務問題の行方などにも左右されており、株価の不安定さにつながっている。
「貯蓄から投資へ」の変化に関心
ただ、岸田政権の経済運営に対する不安があることも事実だ。岸田首相は新しい資本主義の実現を掲げ、所信表明演説でも「成長の果実をしっかり分配することで初めて次の成長が実現する」と強調。一部では、岸田首相が消費税率の引き上げを否定しつつ、財政健全化にも取り組むとしていることから、分配のための財源確保が所得増税で行われ、消費に悪影響が出るとの見方もある。
さらに、岸田首相が金融所得課税の見直しを見据えていることも投資家心理にはマイナスだ。株式の売却益などにかかる税率は現在20%で、所得税と個人住民税の合計での最高税率である55%よりも低い。岸田首相には、こうした税制が株式運用を多く手掛ける富裕層に有利になっているとの問題意識があるが、見直しは投資家に「株式売却益への税率が上がる前に株式を売った方が得だ」との思惑を働かせる施策でもある。
SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「投資家はこれまでの政権が推進してきた『貯蓄から投資へ』の流れが変わる可能性があることに関心がある」と分析。そのうえで岸田政権の具体的な経済政策は現段階では不透明だとし、方向性は「近く見込まれる総選挙や(来年7月に行われる見通しの)参院選を経た後で見えてくる」と話している。