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新時代の事業承継「中小企業のスモールM&A」 跡継ぎ候補をネットで募集

 億のカネが飛び交う弱肉強食の世界“ハゲタカ”のイメージがある企業のM&A(合併・買収)だが、対照的な現象も起きている。跡取りのいない商店や町工場などの中小企業が、第三者に株や事業を譲ることで廃業を防ぐ「スモールM&A」だ。売り手と買い手をつなぐのは、婚活サイトみたいなネットマッチング。専門家が交渉から売買成立までを支援する仕組みが整ってきた。従業員の雇用や取引先、技術・文化を守る新時代の事業承継として、国も後押ししている。

 成約の決め手は「相性」

 部下の社員はデザイナー1人。年により凹凸はあるが年商3千万~5千万円。東京・代々木の広告代理店、アドノット・クリエイツの伊東仁社長(60)は7月、同業他社に株式を譲渡した。黒字経営だったが、跡継ぎがいなかった。

 「IT企業で楽しそうに働いている長男を、あてにできない」。今年3月、スモールM&Aサイトに売り手登録。20人(社)以上の買い手希望が現れたが「うれしさよりも、逆に警戒心が湧いた」という。うち5社と対面交渉。年商で5倍超の規模があるレバーンと調印に至り、東京・南麻布の同社に引っ越した。

 会社が存続し、オーナーからサラリーマン社長となった伊東さんは「常にシナジー(相乗効果)を考えて動いている。若返った気分」と前向きだ。

 買い手側にとっては何が魅力だったのか?

 「伊東社長の長年の技術、現場をまとめ上げる調整力に期待した。一緒に事業を大きくしたい」とレバーンの匹田絵人社長(41)。「実は最初に話したとき、クリエイターとして共感し、大好きになっちゃった」とも。条件面のみならず、人間的な相性の良さが決め手となったようだ。

 ユーザーの9割は買い手

 「婚活と同じ。お互いを信頼できればスピードは非常に速い」。そう語るのは、スモールM&A支援サイトの最大手「バトンズ」(東京・丸の内)の大山敬義CEO(53)だ。設立3年で1320件以上のスモールM&Aを成約させている。93%が売買価格3千万円以下、1千万円以下も70%。個人でも「何とかなりそう」な金額と見てか、ユーザー約12万人(社)の9割は買い手希望者だ。起業を目指す若手の会社員、異業種進出の足がかりを作りたい企業などが意欲を見せている。

 休廃業・解散の件数は昨年、過去最多の4万9698件(東京商工リサーチ調べ)を記録した。「後継者不在による廃業は、地域や日本経済にとっても大きな損失です」と大山CEO。

 情報の秘匿性や真実性などネット特有の課題も浮き彫りになるなか、大山CEOは解説漫画「あなたの夢を叶える! ネットでスモールM&A」を7月に発行した。自らが関わった事例が下敷き。若い女性が地方の和菓子店を承継して今風に再生させたストーリーを軸に、M&Aに必要な手順や注意点を伝えている。

 また、各地のM&Aアドバイザーと運営する「バトンズM&A相談所」が、今秋から全国1600超の商工会と連携。跡継ぎ探しの直接相談の輪を広げる。

 経済産業省も「中小M&Aハンドブック」やガイドラインの活用を促す。

 活気や文化の担い手に

 M&Aアドバイザー自身が跡継ぎになったケースもある。名古屋市の鷹野将和さん(41)は、売却相談を受けていた浜松市の「静岡クラウンメロン」店を自ら買い取った。買い手希望者との交渉が折り合わない中での決断だった。

 「経営状態は良くないけれど、メロンやスイーツは高品質。通販を強化しセンス良くリブランディングすれば成長できる」。昨年末から経営に携わり、ふるさと納税サイトや楽天市場にも販路を拡大。対前年比1・5倍に迫るペースで売り上げを伸ばしている。

 老舗旅館が歴史に幕。人気の食堂が閉店…。跡継ぎ探しをあきらめての廃業が後を絶たない。スモールM&Aでやってくる「よそ者」が、地域の文化や活気の担い手になってほしい。(重松明子)

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