先月8日に閉幕した東京五輪で日本中を沸かせ、惜しまれながらも現役を引退した前マラソン日本記録保持者の大迫傑(すぐる)さん(30)が、新たな生活をスタートさせる中でスポーツバイクを楽しんでいるようだ。もともとクルマ好きで、スポーツバイクもメカニカルな部分に惹(ひ)かれていたという大迫さんは、自身が乗るスポーツバイクのブランド「スペシャライズド」(神奈川県厚木市)のインタビューで、「やっぱり爽快感。外に行ってみんなで乗ったりとか、風を感じると楽しい」とスポーツバイクの魅力を語っている。
市民ランナーにも勧めたい“第2のトレーニング”
スポーツバイク歴はもう3年ほどになる。きっかけとなったのは、欧州遠征の際に目にした世界的な自転車ロードレース「ツール・ド・フランス」だった。
「その時まで全く知らなかったんですけど、ちょうどその時期にツール・ド・フランスが開催されていて、なんかかっこいいなと。選手もそうですが、乗っている自転車自体がかっこよく、こんな自転車があるんだと思いました。それまではママチャリしか乗ったことないし、とても新鮮な感じがして、乗ってみたいという思いはありました」
しかし、スポーツバイクは高価格。どのモデルを選べばよいのか分からないといった理由から当時は断念していた。それから3年。マラソントレーニングで自転車の必要性を感じ、自らモデルを選び、乗り始めたという。
マラソンのトレーニングに自転車を取り入れているのは意外な気もするが、大迫さんは「動かす筋肉は多少違いますが、ある程度のケイデンス(1分間に回すペダルの回数)の感覚はランニングでも大事です」と強調する。
特に、市民ランナーには自転車を取り入れたトレーニングは効果的と考え、「ランニングばかりだと意外と良いことって少なくて。色々なトレーニングを組み合わせてやった方が継続的に飽きないし、動き続けられる。これは仮定ですが、いろんな筋肉を使うことで故障予防になったりするのかなとは思います」と語る。自転車は主にインドアトレーニングで取り入れていたという。
スペシャライズドのスタッフとともに、屋外で自身初となる長距離走行(117キロメートル)に臨み、「インドアで2時間とか乗るんですけど、それは週に1度か2度。それを毎日続けられるかというと無理で、外に行って皆で乗ったりとか、風を感じるとやっぱり楽しいなと思います」と感想を述べた。
現役を退いた現在の生活については、「今までの生活のスタイルとはちょっとずつ変わってくるところがあるので、楽しみであり、不安でありという感じです」と話す。
同行したスペシャライズド・ジャパンのスタッフで元プロトライアスロン選手の益田大貴さんは、大迫さんの走りについて、「ローラー台では乗られていたとのことですが、初めての外ライドで117キロメートルは普通の人は乗れないと思います。登り(坂)が速いのは予想していましたが、平地も速く、私にとっても良いトレーニングになりました」と振り返る。
実走にはまだ不慣れなせいか、下り坂ではスローペースになるという慎重さも見せたそうだが、「当然ながら体力、心肺機能は世界トップレベルなので、自転車に慣れたらヒルクライム(登坂競技)のレースで普通に優勝できると思います」と期待を抱く。
スペシャライズドのインタビューが行われたのは、現役最後となった東京五輪でのレースを走り終えた後の8月17日。スペシャライズド銀座店を訪れ、同時にスポーツバイクの正しい乗車位置を計測するフィッティングも済ませた。「乗りたいけどメカニカルなことになるとやっぱり難しいというハードルがあった」という。
「だからこそ多くの人が自転車でなくランニングの方にいってしまうのでは。その辺からしっかりとサポートできる体制や気軽に相談できるような部分があれば、僕自身ももうちょっと早くに始められたのかなと思います」
昨年3月の東京マラソンで、自らの日本記録を更新する2時間5分29秒をマークした大迫さん。8月8日のレースを最後に現役を退き、「いろいろなことに挑戦できる幅が広がった」大迫さんが国内のヒルクライムレースの表彰台に立つ日も、そう遠くはないかもしれない。