菅義偉首相が退任意向を表明して以降、日本株を買い戻す投資家の動きが顕著となり、日経平均株価は一時、約5カ月ぶりに心理的な節目の3万円台を回復した。新政権下で策定が進むとみられる新型コロナウイルスに絡む経済対策への期待感などから株価は上昇基調にあるが、今後の株式相場はどう読むべきなのか。
選挙の顔変わり「ムード変わった」
「新型コロナ対策に専念したいので総裁選に出馬しない。任期は全うする」
感染拡大が続く中で内閣支持率が急落し、党内で求心力が低下していた菅首相(自民党総裁)は今月3日の党臨時役員会でこう述べ、自身の任期満了に伴う総裁選(17日告示、29日投開票)に立候補しないと表明した。
株式市場は即座に反応し、退任以降を表明した3日以降は連日の大幅高に。8日の日経平均株価の終値は前日比265円07銭高の3万0181円21銭と、4月5日以来、約5カ月ぶりに3万円台を付けた。今年初めての8営業日連続の上昇で、上げ幅は計2540円に達した。
個人投資家向け情報会社「カブ知恵」の藤井英敏代表は「(相場の急上昇は)複合的な要因だが、危機的な水準の内閣支持率のまま菅さんが総裁に再選され、衆院選に突入していれば、自民党は大きく議席を減らす可能性があると思われていた。それが『選挙の顔』が変わることになり、ムードも変わった」と指摘する。
一方で市場の過熱感を懸念する向きも。9日の日経平均株価は前日比222円00銭安の2万9959円21銭と寄り付いた。前日までの株価高騰に対する過熱感を警戒する動きが出たとみられている。藤井代表は「確かに過熱はしている。今後は急騰に対する調整が行われ、しばらく落ち着くのではないか」とみる。
政府は9日、緊急事態宣言発令中の21都道府県のうち東京、大阪など19都道府県は期限を12日から30日に延長し、宮城、岡山の2県は13日から重点措置に変更すると対策本部で決定した。コロナ禍の先行きは依然として見通せず、収束にはほど遠いのが現状だが、ワクチン接種進展後の行動制限緩和案に関し、水際対策の段階的な見直しも進む。帰国者や入国者に求めていた自宅待機期間を現行の14日間から10日間に短縮する方向だ。
藤井代表は「東京都はピークアウトしつつある感じもある。ワクチン接種も加速している」としたうえで、「衆院選の日程が決まったころから(株価は)また上昇していく可能性が高い」とみる。
ちなみに、日経平均株価が一時3万円台を回復した今年4月5日から2日間にわたり、ナビナビ証券が20代~50代の一般投資家330人を対象に行った調査では、一般投資家の34.5%が今後の日経平均株価は「上がる」と予想し、36.1%が「下がる」とみていた。「今後」の時期をどうとらえるかにもよるが、コロナ禍が続く中での異様な株高に違和感を覚える投資家がいる一方で、上昇トレンドへの転換を期待する投資家も少なくないことがうかがえる。