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豪雨被災のJR日田彦山線、鉄道からバスへ新交通網

 平成29年7月の九州北部豪雨で被災し、不通となったJR日田彦山線添田(福岡県添田町)-夜明(大分県日田市)で、バス高速輸送システム(BRT)に転換する工事が進んでいる。BRTへの転換をめぐっては、JR九州と地元自治体の意見がなかなか折り合わず、復旧方針の決定までに被災から3年を要した。昨年7月の合意から1年余りがたち、令和5年度中の運行開始を目指す新たな交通手段を活用したまちづくりが始まろうとしている。関係者の思いを聞いた。(一居真由子)

 「BRTでもよかったと思える政策を取りたい。多くの人に村を訪れてもらえるよう、BRTと観光スポットを連動させる」

 福岡県東峰村の渋谷博昭村長はこう語った。

 日田彦山線の復旧方法を話し合う復旧会議で、東峰村は鉄道での復旧を強く要望した。過疎化が進む村にとって、鉄道は「地元の生命線」だった。しかし、隣接する添田町、日田市がBRTを容認していく中、苦渋の決断として転換を受け入れた。

 その決断は住民から批判され、渋谷氏も「今でも地方に鉄道ネットワークは必要」という思いは強い。それでも村の将来を見据え、BRTの停留所に接続する自動運転の小型自動車を導入する次世代交通インフラを整備し、地域を活性化させる構想を描く。

 渋谷氏はこう力を込めた。

 「BRTも利用者が少なければいずれ切られるかもしれない。将来を見据え、村づくりをやっていく」

 運行開始は5年度

 BRTは、豪雨災害で鉄道が不通となった添田-夜明の29・2キロで整備され、このうち14・1キロをBRT専用道とし、残る区間は一般道を走らせる。JR九州によると、昨年8月に着工し、鉄道のレールや枕木の撤去がほぼ完了した。現在は専用道をつくる基盤整備に入っており、令和5年度中の運行開始を目指している。

 被災からすでに4年がたち、沿線では代行バスの運行が長期化。地域住民には期待と不安が入り交じる。日田市の大肥本町自治会長、石井徹氏(75)は「代行バスはあるが、多くの人がマイカーやバイクを使っている。BRTができても乗客が増えるビジョンが見えてこない。利用者が増えるようアイデアを募ってほしい」と語り、利便性の高い運行ダイヤや、停留所周辺の整備などを自治体やJR九州に求めた。

 平常時から議論

 地域の魅力を高めるBRTや、それにつながる次世代の2次交通が整備されれば、地域の交通機関の確保だけでなく、人口減少が進む地方の活性化モデルになる。JR九州の青柳俊彦社長は7月の記者会見で「地元のみなさんが『自分たちのBRT』という思いが強い輸送インフラにしないといけない。アンケートなどで意見を聞きたい」と語り、環境整備に力を入れる考えを示した。

 被災した日田彦山線の不通区間は利用者減少が著しく、被災前の平成28年度で2億6千万円の赤字を計上していた。同様に人口減が進む九州では、日田彦山線以外にも赤字路線が数多く存在する。JR九州は、厳しい現状を理解してもらおうと、乗客が少なかった線区別の営業損益を公表し、筑肥線や吉都線など6路線7線区では、地元自治体や九州運輸局などと検討会を立ち上げ、持続可能な路線にするための活用策を話し合っている。

 自治体と鉄道会社が議論を円滑に進めるには、両者の信頼関係が鍵を握る。青柳氏は日田彦山線の議論を振り返り、「日ごろから、公共交通インフラをどう維持していくか考えておかないといけない。何か起こってからではなく、平常時から一緒に考えることが大事だ」と語った。

 九州運輸局の河原畑徹局長も7月の会見で「生活の足の確保は大事だが、事業者の経営の安定も求められる。関係者が十分議論を尽くし、地域に合うものを維持することが大事だ。どこにでも当てはまる一般的な解はなく、地域で最適な解を求めることが必要だ」と話している。

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