米マイクロソフト(MS)と米アップルの基本ソフト(OS)がほぼ寡占してきたパソコン市場(タブレット端末含む)が新時代を迎えている。米グーグルの自社OSを組み込んだノートPC「クロームブック」がアップルの「iPad(アイパッド)」の出荷台数を上回る急成長をみせているほか、MSが8月から搭載OSに関係なく「ウィンドウズ」PCの機能を使える画期的なサービスに乗り出したからだ。インターネットでIT基盤を提供するクラウドサービスの拡充が絡み、PCの使い方が広がりそうだ。
米調査会社のIDCによると今年1~3月期のクロームブックの世界出荷台数は前年同期比約4.6倍の約1300万台と急増、64.3%増の約1270万台だったアイパッドを四半期で初めて上回った。4~6月期はアイパッドにわずかに及ばなかったが、68.6%増の約1230万台と引き続き高い伸びだ。
PCを購入する際、これまで多くの人はまず操作基盤のOSでMSのウィンドウズか、アップル製OSのどちらかの環境を選んできた。そこに今、スマートフォンOSで世界トップのグーグルが第3の選択肢として急浮上。クロームブックは価格が3万~6万円台と割安なこともあり、国内でも、全ての小中学生に学習用端末(PC・タブレット)を1人1台整備する政府の「GIGAスクール構想」の市場で、43.8%のトップシェア(MM総研調べ)を占めるなど存在感を増している。
一方、MSが今月から始めた新サービス「ウィンドウズ365」は、PCにインストール(搭載)するのが常識だったOSをネットによるクラウドサービスで外部から提供する。価格は1人当たり月額2720円(税別)から。
ネットの利用環境(閲覧ソフト)さえあれば、競合するアップルのPC「マック」やタブレット、グーグルOSのスマホやクロームブックでもウィンドウズPCの機能が使えるという仕組みで、OSの違いによるすみ分けを崩すことにつながる。アップルやグーグルの製品がより使いやすくなり、敵を利するようにみえるが、MSのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は「クラウドPCという新たなカテゴリーを作りだした」と意に介さない。
ウィンドウズ365は企業や自治体などの法人向けに提供し、職場のウィンドウズPCの作業を、自宅のアップル製品やグーグルOSの端末などでチェックしたり、継続したりするなどの使い方を想定する。職場のPCやデータを持ち帰ることなく、作業はMSがセキュリティー対策を講じるデータセンターのサーバーで管理されるため、情報漏(ろう)洩(えい)のリスクを気にせず、新型コロナウイルス禍のリモートワークなど、働き方改革に安心して取り組めるという。
ウィンドウズPC、文書作成や表計算のソフト「オフィス」で知られるMSだが、今や収益の最大の柱はITの基盤を提供するクラウドサービス。時代の変化に対応した新たなPCの使い方の提案で顧客の満足度を高め、アップルやグーグルの製品利用者を含め、より多くの人を自社のクラウド環境に誘導する。それがMSの狙いだ。
実はクロームブックも、データ保存などの運用やセキュリティー管理をグーグルがクラウドサービスで提供する使い方を想定した端末だ。グーグルは、MSと競合する業務ソフト「グーグルワークスペース」もクラウドで提供しており、PC市場の変化の背後には巨大ITが主力事業に位置付けるクラウドサービスの拡大の流れがある。
新型コロナの感染拡大でネット利用が世界的に進む中、PC機能のクラウド化は加速する可能性がありそうだ。
■クラウドサービス ソフトウエアやデータを個人のパソコンやスマートフォンに保存するのではなく、インターネット経由で外部サーバーにアクセスし、いつでも、どこでも、どの端末でも利用できるようにする仕組み。なぜ「雲」という意味のクラウドと言うかは、雲に隠れているサーバーを利用するイメージを表したなど諸説ある。官公庁や企業が業務やデータ管理に使うほか、メールや音楽・映像配信など身近な分野でも活用されている。