新型コロナウイルス禍でさまざまな分野のペーパーレス化やIT(情報技術)化が進む中、工場や店舗などの現場で働く「ノンデスクワーカー」向けのSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を提供し、受注を伸ばしているのが「カミナシ」(東京都千代田区)だ。現場では作業のチェックリストや伝票、日報の作成など紙が主流。これまでペーパーレス化も進んでいなかった。創業者の諸岡裕人CEO(最高経営責任者)は、航空会社の機内食製造などを請け負う家業の工場で現場の課題に直面。その経験を生かし、ノンデスクワーカーが抵抗なく使える現場改善プラットフォーム「カミナシ」を開発したという。業種に関係なくあらゆる企業で利用可能なホリゾンタルSaaS 。その可能性について、諸岡CEOに聞いた。
年配にも「使いやすい」と好評
――現場で働くノンデスクワーカーの中には、これまでの仕事の進め方を変えることに抵抗や心理的負担を覚える年配の人もいるかと思いますが
諸岡CEO:
社名もプラットフォームの名も“紙無し”を意味する「カミナシ」ですが、私自身は紙の有用性を否定するつもりはありません。現場の作業では紙の方が早く便利な場合もあります。私がなくしたいのは、紙を使うことによる非効率でした。
それに、紙ですと後から書き換えることもできてしまいます。データの改竄(かいざん)といった不正が行われる恐れもあります。クラウド経由で使える現場改善プラットフォーム「カミナシ」なら、端末に入力した日報や品質管理の情報の時間がログとして残ります。現場では端末のiPadなどで写真に残すこともでき、ログとともに記録されますので、不正の心配はなくなります。
確かに、現場ではガラケー(国産の携帯電話で、海外では売れないガラパゴス携帯)を使っている50代や60代の年配の方も少なくありません。ただ近年は、ガラケーからスマートフォンに切り替える人も増えています。スマートフォンのフリーマーケットアプリを駆使される年配の方も珍しくありません。そういった意味では、ペーパーレス化やIT化に対する抵抗、心理的負担は減ってきていると感じます。
われわれが開発した現場改善プラットフォーム「カミナシ」も、最初は現場で実際にどこまで使ってもらえるだろうか、という不安がありましたが、シンプルな画面で音声や手書き入力もできるようにしたことで、これまでITに馴染みのないご年配の方からも「意外と使いやすかった」という反応をいただいています。
例えば、現場では作業従事者にiPadなどのタブレット端末を通じて「カミナシ」に情報を入力してもらいます。その情報をデータ化して集計し、報告書を作成します。これまでと同様、紙に記入していた感覚で入力できるうえ、情報の一元管理も瞬時に行えるのです。
これまで紙やExcel(エクセル)で行っていた作業をそのままデジタル化し、スケジュールやチェックリストなどあらゆる業務の効率化を図ることもできます。また、入力中に是正作業を行う必要があったとしても、その場で是正するためのマニュアル画面に切り替えて、現場の作業従事者が正しく作業ができる情報を表示させることもできます。
これまでのSaaSはデスクワーカーがデスクワーカー向けに開発したものばかりでした。日本の就労人口の半数以上がパソコンを使わないノンデスクワーカーです。「カミナシ」は現場で働く人に向けて、価値を提供していきたいと考えています。
――「カミナシ」を導入すると、具体的にどのようなことができるのでしょう
諸岡CEO:
「カミナシ」では、現場のルーティンワークや事務作業を自動化し、さまざまな業務の効率化を実現できます。工場などの製造現場から小売、飲食、物流、医療分野に至るまであらゆる現場に対応しています。
ユーザーが自分たちに合ったフォーマットを作成し、自由にカスタマイズできるのも特徴です。身近な部分から身の丈に合わせてDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めていくことができます。これを「身の丈DX」と呼んでいます。
昨年11月には、タブレット端末のカメラと連携させ、業務監査を一元管理できる機能も実装しました。一方で、業種やジャンルによっても、求められる機能は異なりますので、特定の業種でしか使われない専用の機能は実装していません。そうした特殊な機能が増えてしまうと使い勝手が悪くなるからです。汎用性のあるプラットフォームを実現する難しさも、そこにあると思っています。
現場の作業に従事している人たちがストレスなく使えるように、UI(ユーザーインターフェイス)やUX(ユーザーエクスペリエンス)に気を配っています。現場にいきなりAI(人工知能)のような高度な技術を持ち込むのは難しいですが、「カミナシ」でペーパーレス化、デジタル化を進めていけば、現場全体を変えることができるはずです。