話題・その他

若者を魅了する「和ろうそく」の秘密 “癒やし効果”持つ炎のゆらぎ

SankeiBiz編集部
SankeiBiz編集部

 伝統工芸品の和ろうそくが若い世代の間でひそかなブームになっている。風がなくても炎が上下に大きく揺らぐ特有の炎を見て、癒やしの効果を感じる人が少なくないようだ。オンラインショップを立ち上げた岐阜県飛騨市にある老舗和ろうそく店によると、「まるで生きているようにポンポンと炎が弾み、神秘的な味わいがある炎」が出るという。新型コロナウイルス禍で若者を魅了する炎。そこにはどんな秘密が隠されているのか。

 炎のゆらぎに癒やされる理由

 「主に10~30代の方に人気です。アロマキャンドルのような感覚で、心の中を癒やしたい、精神を統一したいという方に使っていただいています」

 こう語るのは、明和年間(1764~72)から続く「三嶋和ろうそく店」7代目店主の三嶋順二さん(74)。江戸時代に最盛期を迎えた和ろうそくは明治以降、西洋ろうそくや電灯の普及で衰退の一途をたどったが、最近は“癒やしグッズ”として脚光を浴びるようになったという。

 和ろうそくは天然の素材だけを使って一本一本丁寧に作られる。植物性の蝋(ろう)を使っているため、西洋ろうそくに比べ煤(すす)も出にくく、芯が溶けた蝋を吸い上げながら燃えるため蝋が垂れにくいのが特徴だ。

 「仏様が喜んでらっしゃるような炎とも言われますが、和ろうそくの炎は揺れたり止まったり、大きくなったりして、いろんな揺らぎを楽しめます」

 和ろうそくと言っても、要はろうそく。一般的に出回っている西洋ろうそくと何が違うのか。三嶋さんは「芯の中に空気が入っているのです」と秘密を明かす。西洋ろうそくの芯は木綿糸などの糸芯。これに対し、和ろうそくの芯は和紙を棒に巻きつけ、イグサから採れる燈芯に巻き、真綿で留めてつくられている。「筒状の芯」(三嶋さん)にすることで芯に空洞が生まれ、そこを流れる空気によって、表情豊かな炎を生み出しているのだ。

 自然の炎のゆらぎは人間の鼓動のリズムに通じるところがあり、それが心地よい感覚を与えるとされる。炎のゆらぎのような癒しの効果 (1/fゆらぎ)は、そよ風や川のせせらぎなどにもあるという。

 全国で和ろうそくを製造している店は二十数軒ほど。三嶋さんは、後継ぎとなる8代目の大介さん(32)とともに「昔からの伝統、和の世界をいつまでも残していきたい」と強調する。

 「弱虫日記」「君の名は。」「さくら」の舞台に

 三嶋和ろうそく店があるのは、名古屋からJR高山本線の特急「ひだ」号で2時間40ほどの飛騨古川(飛騨市)。高山や白川郷の先、富山県と隣接する城下町だ。出格子の商家や白壁の土蔵が続く街並みは、テレビや映画のロケ地にもなってきた。

 NHKの朝の連続テレビ小説「さくら」(2002年)では、三嶋和ろうそく店が主人公の下宿先として登場。地元の飛騨古川はアニメ映画「君の名は。」の舞台にもなっている。最近では、映画監督で脚本家、足立紳の青春小説「弱虫日記」(講談社文庫)のメインロケ地になることも決まった。

 三嶋さんは「人情味のある素敵な街です」と胸を張る。コロナ禍で観光業界は大きな打撃を受けたが、「友達や温かいお客さま」の協力でオンラインショップも立ち上げることができたという。

 三嶋和ろうそく店ではつくられているのは「生掛け和ろうそく」と呼ばれる100%植物性の和ろうそく。江戸時代は「超」が付く高級品だった。富裕層や遊郭、料亭など限られた場所で使われていたらしい。

 神秘的な炎が“癒やしグッズ”として脚光を浴びるようになった和ろうそくは、三嶋さんが毎朝午前4時から丹精を込めてつくっている。それはまさに、匠の技を今に伝える伝統工芸品でもある。

SankeiBiz編集部
SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
SankeiBiz編集部員が取材・執筆したコンテンツを提供。通勤途中や自宅で、少しまとまった時間に読めて、少し賢くなれる。そんなコンテンツを目指している。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus