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災害に強いLP発電機に注目 産業から医療まで、5年後には3万台の販売を目指す

 大規模な風水害などに伴う停電への備えとして、災害に強いLPガスを活用した発電機に注目が集まっている。着火性に優れ長時間連続稼働が可能なためで、停電を避けたい製造業や流通業といった産業界から病院・介護施設まで幅広い需要が見込まれる。災害に強い社会のインフラ整備に向け、開発が進んでいる。

 この有望市場にいち早く着目したエネルギーベンチャーのレイパワー(東京都千代田区)が市場開拓に本格的に乗り出す。安定した生産体制を整えた上、今秋には大型機も新規投入。5年後には現状機種とあわせて3万台の販売を目指す。

 同社の非常用LPガス発電機は、車のル・マン24時間耐久レース参戦で培った技術から生まれた高耐久性・低燃費などが強み。

 レース参戦車のエンジンを開発したYGK通商(同大田区)と共同で、定格出力電力(発電機が安定して出力可能な電力)が3kVA(キロボルトアンペア)の「YL-03」を令和元年10月に製品化、これまでに50カ所に74台を設置した。

 その一つが横浜市の介護施設。理事長は「入居者に安心、安全を約束でき、これほどの安心感はない」と喜びを隠さない。今年3月に同発電機を2台導入、120時間(5日間)連続で電気を供給できる態勢を整備した。吸痰器や酸素吸入器など介護用機器が停電により稼働停止に追い込まれるという最悪の事態を防げる。

 実際に同発電機に救われた導入企業も現れた。今年1月、山形県を襲った豪雪で停電が発生した山形市で、購入企業3社が停電直後に同発電機の自動起動により難を免れた。

 地震や大型台風、大雪など自然災害に見舞われると送電線が切れたり、発電所などの設備が故障したりして停電が発生すると復旧まで2週間以上かかることもある。それだけ経済活動や生活に支障をきたす。

 こうした状況下でも、「確実にすぐ動く、しかも長時間」というのがLPガス発電機の特徴で、災害時に欠かせないと自治体や企業、病院などから問い合わせが相次ぐ。

 LPガス発電機が注目を集めるきっかけとなったのは、平成23年の東日本大震災だ。当時の災害用はディーゼル発電機が主流で、重い上に振動や騒音が大きい。このため1階や地下に設置されることが多く、水没や倒壊で使えなかった。使える状態にあっても燃料の劣化で点火せず稼働できない事態も多発した。起動しても継続した燃料補充ができず数時間で停止した。

 一方、LPガスはほとんど劣化しない上、供給網が早期に復旧したため継続して利用でき、家庭用プロパンガス(LPガス)を使っていた施設では平常時と変わらず炊事やフロ炊きなどに使われ「災害時に強い」との認知が広がった。

 振動や騒音がなく、環境にも優しい蓄電池も候補だが、電気容量に限りがあり非常時には追加や交換が難しいため稼働時間が短い。

 これを踏まえ製品化したのがYL-03だ。YGKの山崎正弘代表取締役は「被災地を訪れ、災害に強く長時間稼働する発電機の必要性を痛感した。以前からガスエンジンを開発していたのでこの技術を生かした」という。国が推奨する最低72時間連続運転(LPガス60キログラム)を達成。また停電を自動検知し40秒以内で自動起動し、復電時には自動停止する。

 水害に備え屋上やベランダなどに設置できるよう小型・軽量かつ停振動、低騒音を実現。発電機としては世界で初めてネットワーク接続によりリモート操作も可能にした。

 さらに国土交通省が、利用を推奨する新技術情報提供システム(NETIS)に登録したことで認知度は向上した。NETISは、公共工事などへの活用を後押しする目的で国交省が運用している新技術に関するデータベースで、「国の施設の設計を任されたコンサルティング会社から『この機器を使いたい』という相談や問い合わせが増えた。国が認めてくれた技術だ」とレイパワーの内田洋輔代表取締役は胸を張る。

 発電機は、自動化・デジタル化が進む工場の停電対策、災害時の通信手段の維持のほか、介護施設では入居者の命を、病院では停電時でも医療機器や冷凍保管庫を守るために不可欠だ。高層マンションや避難所への備えも欠かせないため、内田氏は「需要はある。量産できないと迷惑をかける」と開発・生産体制を強化。生産を安定化することで確実に販売台数を増やし、令和3年度は300台の設置を目指す。

 そのための販売網も着々と整備しており、関電工はYGKを通じてOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受け、「防災用LPガス発電機」として発売。大塚商会も販売代理店としてスポット的に販売を始めた。

 一方で、レイパワーは、よりパワーのある50kVAの「YL-35」を製品化し10月をめどに発売する。重量は同規模のディーゼル発電機の約3分の1を実現した。今年度は25台を販売する計画で、5年後には1万台まで引き上げる。乾電池の並列回路のような使い方も可能で、100kVA、150kVAとパワーを増強でき、それだけ利用シーンも広がる。

 将来的には災害に強い社会インフラ整備に挑む。大規模発電所から電気を供給するのではなく、太陽光パネルや電気自動車(EV)、蓄電池などを束ね、あたかも一つの発電所として機能させるVPP(仮想発電所)の実験にLPガス発電機の提供を通じて関わっていく。(松岡健夫)

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