川崎重工業が、検体投入から80分という短時間で新型コロナウイルスの感染の有無を判定できる「自動PCR検査ロボットシステム」を開発、実用化した。すべてをロボットが作業するため、医療従事者の感染リスクも軽減でき、医療現場や空港などでの利用が期待されている。開発期間は約10カ月。「コロナで奪われた日常を早く取り戻したい」。社員の強い思いが短期間での実用化を後押しした。
3社一丸で実用化
5月下旬、関西国際空港に自動PCR検査ロボットシステムが設置された。渡航者が唾液を提出すると、80分で結果が判明、医師の問診後に陰性証明書を受け取れる。1万円前後の料金を想定し、関空では現在、サービス提供の準備を進めている。
このシステムを開発したのは川重と臨床検査機器・試薬大手のシスメックス、両社の合弁会社メディカロイド(神戸市中央区)の3社。3社は2013年に国産初の手術支援ロボット「hinotori(ヒノトリ)」の開発に乗り出し、昨年12月に神戸大で初手術を成功させた。
自動PCR検査ロボットシステムの開発がスタートしたのは、コロナの感染が拡大していた昨年4月。メディカロイドの会長も務める川重の橋本康彦社長が「大変なときこそ、われわれができることをやらないといけない」と呼びかけ、ヒノトリの“延長戦”として開発が始まった。昨年8月に社長直轄プロジェクト推進室を設置。その第1号案件として、全社一丸で取り組むことになった。
開発にあたり、目指したのは感染リスクの低減と判定時間の短縮だった。
従来のロボットを使ったPCR検査は、検体が入った容器の蓋を開ける「開栓」や、検体をプレートに注ぐ「分注」を手動で行う必要があり、作業する医療従事者にも感染リスクが生じた。
川重のシステムは開栓・分注のほか、検体の取り込みや検体から遺伝子を抜き出す「核酸抽出」、遺伝子を増幅させる「試薬調製」「PCR測定」まで、すべての検査工程をロボットが全自動で作業することで安全性を向上した。
一連の工程は長さ12メートル、幅2.5メートル、高さ2.9メートルのコンテナの中で行われる。イベント会場や空港などにトレーラーで簡単に持ち運べるように、コンテナ型を採用したのだ。
一方、判定時間を短縮するため、川重は一度に検査する検体のロット数をそれまでの96検体から8検体に大幅に削減した。それまでの装置は多くの手作業が必要で、核酸抽出後の試薬調製とPCR測定の工程で210分を要していた。川重は結果判明までのスピードを優先して8検体ずつ処理する方式を採用。一度に処理できる検体数は減るものの、代わりに2分半間隔で検体を投入できるようにし、スピードアップを果たした。
時短へ多彩な工夫
時間短縮のための工夫はほかにもある。PCR検査は検体の温度の上げ下げを何度も繰り返すことで、ウイルスの中にある核酸を増幅させ、感染の有無を確認する。検査の中で、この工程が最も時間を要するが、高速・コンパクトな動きをする小型ロボットを導入した。
実際に試薬を混ぜるのが上手な検査技師の動きを分析し、ロボット制御にも反映させた。ロボットの配置場所や角度で処理スピードが大きく変わるため、自動車や半導体工場の製造ラインで培った産業用ロボットのノウハウを生かし、最適配置を導き出した。
システムには、これまで培ってきた技術・知見をさまざまな部分に織り込んだ。