新型コロナウイルスのワクチン接種で打ち手不足が課題となる中、医師や看護師が参加を希望しながら活用されないミスマッチが生じている。医師らが勤務時間外や休日での柔軟な働き方を望んでいるのに対し、接種計画を立てる自治体側は日時の固定化を求めるなど条件面の溝が大きい。勤務先などから要請自体がなく、手をこまねいているケースも少なくない。
「子育てがあるので丸一日は難しいが、半日程度なら対応できるのに…」。神奈川県内の大学病院で働く放射線科の女性医師(38)は歯がゆさを口にする。幼い子供を育てながら時短勤務を選択しているが、夫や家族の協力を得れば、土日を利用して打ち手となることは可能だ。
だが職場や自治体からの協力要請に関する情報を目にしたことはない。「役に立てるのならば協力したいという医師は他にもいるが、窓口が分からず、行動に移せていない」と、女性医師は打ち明ける。
土日を中心に集団接種会場に参加する40代の男性医師も「国や自治体は、医師側の潜在的ニーズを拾い切れていないのではないか」と感じている。勤務先の東京都内の大学病院からは参加の呼びかけがなく、人材派遣会社の求人で打ち手不足を認識したという。
医師の人材紹介を手がける「エムステージ」(東京)が1月に医師483人に行ったワクチン接種に関する調査では、9割以上が求人があれば「勤務を希望する」と回答している。
同社の求人では、ワクチン接種の応募倍率は2・37倍に上り、一般的な健診業務全体の1・38倍より高水準にある。同社は「接種対応に手を挙げた医師の半数以上が、勤務できずに採用を見送られている状況がうかがえる」と分析する。
自治体側の条件は「毎週月曜に」とか「朝から夜間まで」といった拘束時間が固定化されていたり、長時間にわたったりするケースが多く、都内在住の男性小児科医(34)は「午前帯や午後帯を選べるなどの働き方があれば、もっと協力しやすい」と漏らす。
復帰を検討する「潜在看護師」にも条件面が壁となっている恐れがある。看護師人材紹介サービスなどを運営する「ディップ」が3月に潜在看護師ら1545人に行った調査では、ワクチン接種の求人に「応募したい」と「内容や条件次第で検討したい」で合わせて6割超が前向きな回答をしたが、「一時的な雇用か、その後も続けて働けるか」などの懸念の声もあった。
各自治体は打ち手の確保に地元医師会や医療機関の協力を仰ぐほか、人材紹介・派遣などを行う民間企業を頼る動きも広がる。首都圏の自治体担当者は「必要な人数を提示するだけで、細かい雇用条件は企業に任せている」と説明する。
別の自治体担当者は「会場の開設中は前後半で人員交代があっても構わない」とする一方、「円滑な会場運営を考えると、数時間のうちに医師らが何度も入れ替わることが効率的かという問題はある」と話す。
エムステージの安藤真由美マネージャーは「接種に協力したい医師は多いのに、参加できない状況が存在するのはもったいない。今いる人材を生かせる態勢を整えていくことが重要だ」と強調した。