高度経済成長期に建てられた東京都日野市の団地が大規模なリノベーションを経て、漫画家や漫画家志望者向けの団地型シェアハウスに生まれ変わった。本気で漫画家を目指す令和の漫画家たちにとって、同じ屋根の下で暮らす仲間たちに刺激を受けながら研鑽(けんさん)を積むことができる場となりそうだ。昭和期の巨匠漫画家たちが住んだアパート「トキワ荘」(東京都豊島区)を思わせる共同生活を送れる団地は「多摩トキワソウ団地」と名づけられた。漫画家・漫画家志望者に限定した住まいとしては日本最大規模だという。
ひとつ屋根の下、漫画家たちが切磋琢磨
現代のトキワ荘ができたのは、都市再生機構(UR)が手がける築60年以上の団地。本気でプロの漫画家を目指す人を支援するため、一部区画29室をNPO法人「NEWVERY」が借り受け、現役の連載漫画家から直接指導を受けられるプログラムなどを提供。ひとつ屋根の下、同じ志を持った入居者同士で切磋琢磨(せっさくたくま)できる環境を整えた。
個室3室で1ユニットの構成で、住民が共同利用するキッチンやラウンジ、ワークスペースなどを設け、住民同士が交流しやすい住環境を実現。家賃は3万8000円~4万2000円、18歳以上から入居可能。多摩トキワソウ団地以外の物件の空き部屋状況は公式サイトから確認できる。
漫画家志望者を支援するNEWVERYの「トキワ荘プロジェクト」は2006年8月に始まり、これまで延べ500人を超える参加者のうち120人以上がプロデビューを果たしたという。プロジェクトでこれまで展開してきたシェアハウスは14棟(全80室)を数えるが、立地は主に都心のターミナル駅から25キロ圏内にしていた。入居者がプロ漫画家のアシスタント業務を行う際のアクセスの良さを考慮したものだったが、新型コロナウイルス感染拡大に伴うテレワーク環境の普及によって、業務もリモート化。必ずしも交通環境の良さは求められなくなった。
他方、人口現象が著しい地方では、都心部と比べて漫画家・漫画家志望者の数も相対的に少なく、対面交流を通じた「インプットの少なさ」が、漫画家たちの成長の足かせになっているとの認識が深まっていたという。NEWVERYは今後の支援について「居住者専用のオンラインコミュニティと併用しながら、キャリア形成をより加速する仕掛けを進めていきます」としている。
今年4月にインターネット接続事業者(プロバイダー)のニフティが子供たちを対象に行った「なりたい職業」に関するアンケートでは、「マンガ家・アニメーター・イラストレーター」との回答が最も多い結果になった。「鬼滅の刃」ブームを通して、漫画の作り手になりたいという想いを抱く子供たちも増えているようだ。(関連記事:【「鬼滅の刃」効果鮮明に? 子供のなりたい職業ランキング発表、2448人に調査】)
出版科学研究所が今年2月に発表した集計では、昨年のコミック市場の規模は前年比23.0%増の6126億円となり、1978年の統計開始以来最大となった。鬼滅など人気漫画の爆発的ヒットに加え、緊急事態宣言に伴う「巣ごもり」需要も追い風になっている。
多摩トキワソウ団地では「どんど焼き」「餅つき大会」など季節の地域イベントも行われるという。本気で漫画家になりたいという強い想いを持った人は、その一歩として門を叩いてみてもいいかもしれない。