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給与の「デジタル払い」はあり?なし? 振込手数料削減に期待も現実味は…

 給与を働く人のスマートフォン決済などの口座に直接入金する「デジタル払い」をめぐり議論が活発になっている。政府は給与デジタル払いをキャッシュレス化促進の象徴的な取り組みと位置づけているが、スマホ決済アプリを扱う資金移動業者は登録制のため、個人データ保護の観点から、許可制の銀行に比べて安全性を不安視する指摘も出ている。問題が起これば生活の安定に直結するだけに、従業員が少ない小規模の事業者は、デジタル払い解禁後も従来の口座振り込みを続ける方針を示している。

 政府は銀行振り込みと同様、「PayPay」や「LINEペイ」などのスマホ決済などの口座に直接給与を振り込むことができるようにする制度改正を目指している。厚生労働省は4月、労働者本人の同意や安全性の担保を条件とした上で認める案を提示した。外国人労働者が銀行口座をなかなか開設できないとされる問題もあり、IT関連企業でつくるフィンテック協会などは政府の動きを歓迎する。一方、安全性などの観点から労働組合の連合はデジタル払いに強い抵抗を示している。

 会計ソフトなどを提供するフリーウェイジャパン(東京)が5月、小規模企業者を対象に行った調査によると、賃金のデジタル払いの認知度は52.2%。過半数に達したが「詳細まで認知している」は全体の4.3%にとどまった。今後、希望する給与の支払い手段では「銀行振込」が80.2%で最も多く、「デジタル払い」はわずか6.2%。「現金手渡し」の11.4%を下回った。

 ただ、導入の可否を検討しているかどうかについては、これから検討する企業も含め35.2%が前向きな回答をした。検討中の51社に利用目的を聞くと、約半数にあたる49.0%が「銀行振込手数料の削減」を挙げ、希望する決済アプリは「PayPay」が68.8%でトップだった。

 人事システムを開発するワークスHI(東京)が2~3月に、大手法人の265人を対象に行った同様の調査でも、27.1%の企業が導入を検討しており、55.2%が目的を「銀行振込手数料の削減」と回答した。デジタル払いに対する態度や求めるメリットの傾向は、大企業・中小企業で共通しているようだ。

 銀行では、他行宛ての給与振込手数料を330~660円程度に設定することが多い。各企業の担当者はこのコストを縮小させたい考えだが、まだ厚労省などが議論をしている段階であり、デジタル払いに切り替えることでどれだけ手数料が変わるかは不透明だ。

 PayPayコーポレートコミュニケーション部の担当者は「雇用主である企業にとっても、労働者にとっても利便性が高まり、当社としてもビジネスチャンスの拡大が想定されることから正式な導入に期待はしていますが、現状、当社としては給与のデジタル払いに向けて、送金手数料の引き下げ等をはじめとする具体的なサービス導入の予定はありません」としている。

 日銀が4月からCBDC(中央銀行が発行するデジタル通貨)の実証実験を始めるなど、キャッシュレス化の流れは年々強まっている。お金との新しい付き合い方が生まれる中で、賃金のデジタル払いについても地に足をつけた取り組みが求められそうだ。

SankeiBiz編集部
SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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