国内外の特許情報監視サービスなどを日本企業に提供する発明推進協会はこのほど、中国特許庁におけるウイルス抗感染剤関連の特許出願状況を調査した。新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)が始まった2020年に件数が急増したことに加え、中国人民解放軍直下の研究機関の出願も集中的に行われていたことが分かった。
データは近く、同協会のサービスポータルサイト「知財よろずや」で公開される。調査は6月1日時点。中国特許庁傘下の知識産権出版社が提供する中国特許データベース「CNIPR」を使って、16年1月以降公開された特許出願データの中から、RNAウイルスに対する抗感染剤が含まれる国際特許分類の「IPC:A61P31/14」を検索条件に入れて行った。(【「あり得る」】新型コロナの武漢研究所流出説、米で報告書)
結果、16年1092件、17年911件、18年805件、19年693件、20年1558件、21年114件を抽出。出願人の大半は国内勢で、日本含め外国勢は少なかった。これは中国の早期公開制度の影響。中国特許庁の実体審査は特許公開後に可能になるため、世界標準の1年半を待たず公開する出願人が多いからだ。国策でバイオ技術立国を進める中国勢の権利化意欲の高さをうかがわせる。
発明名称は16年から19年まではさまざまだが、急増した20年以降はコロナ関連語を含むものが目立つ。新型冠状病毒(372件)、SARS-COV-2(68件)、新冠病毒(136件)などだ。中国人民解放軍直下の研究機関の出願は、16年21件、17年9件、18年24件、19年20件、20年55件、21年4件。20年は約6割がコロナ関連。軍事科学院軍事医学研究院が取得した「アビガン」(ファビピラビル)の用途特許も含まれている。
なぜ中国人民解放軍が特許取得に動くのか。日本貿易振興機構(JETRO)北京の元知財室長で、中国の知財事情に詳しい鳥取大学客員教授の後谷陽一弁理士は、「元来、どの国でも軍は防疫の研究をしており、当たり前の話。秘密特許や特許出願されない水面下の研究も多いはずだ」と話す。(【米非営利団体が報告書】「中国ウイグル自治区で大規模な強制不妊」)
中国は6月1日、新特許法を施行した。「中国では医薬特許の保護期限が長くなる。医薬関連企業や機関は、より積極的に中国での医薬関連特許の陣容を整えて来ることが予想される」とバード&バード北京の道下理恵子パートナー弁護士は言う。
同協会の幡野政樹・市場開発チーム課長は「アビガン以外も日本企業などが持つ物質特許の用途特許を中国人民解放軍系が複数権利化済みだ。中国の動きは戦略的で目が離せない。日本企業は特許情報を常時ウオッチング、情報収集し、先に対策を取ることだ」と警鐘を鳴らしている。(知財情報&戦略システム 中岡浩)
■人民解放軍系研究機関の「抗感染剤」に関する特許出願
順位 機関名
1 軍事科学院軍事医学研究院 67件
2 第二軍医大学 12件
3 第四軍医大学 9件
4 軍事医学科学院微生物流行病研究所 8件
5 海軍軍医大学 5件
陸軍軍医大学 5件
軍事医学科学院生物工程研究所 5件
※2016年1月から21年6月1日までの中国国内分。軍事医学 科学院は17年に新設の軍事科学院に統合。発明推進協会の データを基に作成