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鉄道大手5社、「新常態」経営を模索 頼みの不動産てこ入れ急ぐ

 鉄道各社の苦境が続いている。関西大手5社の2021年3月期連結決算は、いずれも最終赤字。コロナ禍での出控えや訪日外国人客の消滅で、鉄道に加え観光も深刻な打撃を受けている。各社は資産の売却などコストカットを進める一方、コロナ禍でも比較的堅調な不動産事業のてこ入れを急ぐ。コロナ時代の「新常態(ニューノーマル)」に適した経営の模索が始まっている。

 物流施設や駅前開発

 「ライトアセット(保有資産を減らした身軽な)経営を目指す」。過去最大の601億円の最終赤字を発表した近鉄グループホールディングス(HD)の小倉敏秀社長はそう強調した。

 伊勢志摩や京都などにある8ホテルの売却などここ数カ月で資産売却の方針を加速。対象には1年8カ月前にリニューアルしたばかりのホテルもあり、なりふり構わぬ姿勢が鮮明だ。

 苦境の要因は観光事業の低迷。運輸部門の2倍超の売上高を持つ稼ぎ頭だったが、コロナ禍の出控えが運輸とともにダブルパンチとなった。21年3月期のホテル・レジャー部門の営業赤字額は、グループ全体の営業赤字額の約8割の規模だ。

 「このご時世に旅行会社を買収してくれる企業などない」。債務超過に陥った旅行子会社、KNT-CTホールディングスに関し、仮定の話として株式売却の可能性を問われた幹部は首をすくめる。

 観光事業への打撃は他社も同様だ。阪急阪神HDは訪日客の回復が見込めないことなどから、6ホテルの営業終了を発表。京阪HDもユニバーサル・スタジオ・ジャパン(大阪市)に隣接する1ホテルの営業を5月に終了した。JR西はゴールデンウイークを含む5月上旬の山陽新幹線の乗客者数が、コロナ禍前の24%に落ち込んだ。

 一方、堅調だったのが不動産事業だ。同事業が営業増益となった京阪HDの幹部は「貸会議室のキャンセルなどはあったが、コロナの影響は軽微だった」と語る。

 各社は不動産事業を強化する。南海電気鉄道は、お膝元の大阪・難波での新オフィスビル建設や堺市での駅前開発、大阪府茨木市内の物流施設の拡充と3つの不動産事業に注力する。近鉄グループHDも中期経営計画で、学園前駅(奈良市)などでの駅前開発を表明。阪急阪神HDも「沿線の定住人口を増やすため、分譲マンションに加え賃貸物件も増やす」(大塚順一執行役員)。次の柱が見つからないなか、不動産に頼る構図が強まる。

 地方路線の維持困難

 本業の運輸事業はどう立て直していくか。

 JR西の長谷川一明社長は「10年後に想定していた未来が今、来てしまった」と指摘する。人口減に伴う乗客減少は中長期的な課題だったが、想定外に早く「その時期」が来てしまったという状況だ。

 既に運輸事業も「聖域」でなくなっている。

 「ローカル線の維持は非常に難しくなってきた」。長谷川氏は収益性の低い地方路線の存続をめぐり、自治体と協議を進める意向を表明した。ただ、公共性の高い鉄道事業の見直しは生活への影響も大きい。JR西は5月19日、今秋に在来線約130本の運行取りやめや運行区間を短縮する方針を明らかにしたが、対象に取り沙汰された路線の自治体には反発が広がっている。

 それでも各社の取り組みは続きそうだ。岩井コスモ証券の饗場(あいば)大介シニアアナリストは「関西の鉄道業界が抱えていた人口減少の問題は訪日客の流入で隠されていたが、コロナ禍で再びあらわになった」と指摘。「各社は今後、地方路線の廃止や駅の削減、ダイヤのさらなる見直しなどに着手せざるを得ないだろう」としている。(黒川信雄)

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