終盤国会で野党が「ワクチン接種の遅れは政府の失策」と追及を強めている。医療従事者と65歳以上の高齢者を対象とした新型コロナウイルスワクチンの接種回数は増えてきたものの、菅義偉首相が目標に掲げる1日当たり100万回には届いていないからだ。ただ、野党は昨年の国会審議でワクチン承認に慎重な対応を求めていただけに、政府側からは変わり身の早さに不満の声が漏れる。
「どうしてこんなに遅いんですか。接種が」。5月13日の参院内閣委員会で、立憲民主党の杉尾秀哉氏は河野太郎ワクチン担当相にこう迫った。「だいたい想定通り」とかわした河野氏に対し、杉尾氏は「そもそも気長に待ってくださいと国民にいえますか! 今の混乱をどう思っているのか」と追い打ちをかけた。
産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が5月15、16両日に実施した合同世論調査では、ワクチン接種のスケジュールについて「評価しない」(55・2%)が「評価する」(41・2%)を上回った。野党が接種の加速化を求める背景にはこうした世論の影響が透ける。
そんな野党側も昨年12月に成立した改正予防接種法の審議では政府に対して慎重な対応を求めていた。
昨年11月13日の衆院厚労委で、医師資格を持つ立民の中島克仁氏は海外の治験データをもとにワクチン使用を認める特例承認について「人種差を含めてどういう反応になるのか。直接的な副反応以上にリスクが拡大していくことも懸念される」と指摘。共産党の宮本徹氏も同18日の衆院厚労委で「新薬をスピード認可して痛い目にあったことがある。大変な事態が起きない保証はない」と懸念を示していた。
こうした議論を踏まえ、改正予防接種法には「新しい技術を活用した新型コロナワクチンの審査には国内外の治験を踏まえ、慎重に行うこと」とする付帯決議が盛り込まれた。現在の接種スピードは国会審議を踏まえた結果でもあり、野党の「変心」ぶりに政府関係者は「今になって早くやれというのはおかしくないか」と憤る。
合同調査で内閣支持率は大きく低下したものの、立民の支持率は7・7%、共産は1・9%にとどまっている。ワクチン接種を政権批判に用いる野党の手法が幅広い支持を得られるのかが注目される。(大島悠亮)