少子高齢化で生産年齢人口の減少が進む中、建設や介護の現場などで活躍している装着型のアシストスーツが進化を遂げている。農作業やリハビリなどにも活躍の場が広がり、身近な存在になってきた。市場規模も拡大の一途をたどり、新たな成長産業に育ちつつある。
身近な存在に
東京理科大学発ベンチャー企業のイノフィス(東京都新宿区)は17日、アシストスーツの新機種「マッスルスーツ GS-ARM(アーム)」を発売した。
新機種は、果樹の摘み取りやトンネル壁面の打音検査など上腕を使った「腕上げ作業」の負担軽減に特化。圧縮ガスを使ったガススプリング(ばね)を採用し、電源不要で場所を選ばずに使えるようにした。4.5キロ分の力で上腕を支え、上下や左右、斜め方向にも上腕を動かせる。価格は13万2000円(税込み)で、初年度2000台の販売を見込む。
同日、都内の記者発表会でイノフィスの折原大吾社長は「建設業界や設備メンテナンス、工場などでもかなり需要が見込める」と販売への期待を示した。
イノフィスは2013年12月、東京理科大の小林宏教授の研究成果をもとに立ち上げたロボットベンチャー。19年11月に発売した「マッスルスーツ・エブリィ」は腰にかかる負担軽減を目的に開発。累計で1万6000台以上を出荷した。(【運搬の負担減、離職防止に効果】食品加工会社でパワースーツ好評)
上腕を保持するアシストスーツでは、中央大学発ベンチャー企業のソラリス(同文京区)も20年秋に「タスキ」を開発。こちらもばねを採用することで電源を外し、野外作業で活躍できるようにした。
アシストスーツの先駆者的存在といえるのが、04年に設立した筑波大学発のサイバーダイン。山海嘉之教授のロボット技術に関する研究成果をもとに開発された「HAL(ハル)」もすでに建設現場や介護現場で活躍している。
HALを使った在宅リハビリプログラムを開発。脳梗塞リハビリ施設を手掛けるワイズがHALを使ったプログラムの提供を始めている。(【体幹機能の維持や改善を促す】脳梗塞リハビリにアシストスーツ ワイズ、サイバーダインと提携)
25年に238億円市場
パナソニック子会社のATOUN(アトウン、奈良市)も腰装着型のアシストスーツ「モデルY」に加え、今年1月にはモデルYに手袋をワイヤでつなげて腰と腕を同時に補助する「モデルY+kote(コテ)」を投入した。2019年の台風19号で大きな被害を受けた富士山の山梨県側登山道など、災害復旧の現場で活躍している。
ロボベンチャーのアルケリス(横浜市金沢区)のアシストスーツは「身に着けて歩ける椅子」がコンセプト。長時間の中腰姿勢でも筋肉に負荷を与えない。横浜市がこの装着型ロボを採用し、交通局では路線バスの乗務員への指導業務などに活用している。
富士経済によると、日本国内のパワーアシスト・増幅スーツの市場規模は2019年に36億円だったのが、25年にはその約6.6倍の238億円に達する。同社では「医療や介護分野だけでなく、製造業や物流、農業分野などでも普及が進んでおり、今後も堅調な市場拡大が予想される」と分析している。(松村信仁)