損害保険ジャパンCSR室・村上歌奈子氏に聞く
持続可能な社会への移行を加速化させるため、世界40カ国・約200社の経営者が参加するWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)は3月25日、2010年に策定した活動指針「Vision(ビジョン)2050」を見直した「同Refresh(リフレッシュ)」を公表した。1995年の設立時から日本唯一の金融機関として議論に加わってきた損害保険ジャパンCSR室の村上歌奈子氏は「今後10年間の企業行動が重要になるのでマインドを変えていく必要がある。同リフレッシュを“和訳”して、議論に参加していない日本企業を巻き込み、ステークホルダー(利害関係者)資本主義に変える」と話した。
「価値の再定義」議論
--WBCSDの役割は
「約200社(日本企業は20社)の経営者が持続可能な社会の発展に向けリーダーシップを発揮し、国連などに政策提言を行っている。現在はSDGs(持続可能な開発目標)達成に向け、CEO(最高経営責任者)が主導的役割を担って『循環型経済』『都市・モビリティー』『気候変動・エネルギー』『食・土地・水』『人々』『価値の再定義』という6つのテーマに分かれて議論している」
--損保ジャパンの立ち位置は
「二宮雅也会長は、短期的な株主第一主義から、長期的視点に立つステークホルダー資本主義への変革を目指す『価値の再定義』のボードメンバーを務めている。損保ジャパン会長という立場だけでなく、経団連企業行動・SDGs委員長としての活動を生かして、日本の産業界の動きなどの事例を織り交ぜながら、投資家コミュニティーとの連携、企業経営層への啓発、ソーシャルファイナンスの担い手の多様化といった重要性について発言してきた」
--同リフレッシュの概要は
「ビジョン2050で掲げた『90億の人々が地球の境界のなかでよりよい生活ができる世界の実現』という長期ビジョンに変更はない。ただ、昨今の社会課題に対する緊急性や社会変革の重要性を踏まえ、ビジョン実現までの道筋や今後のメガトレンドなどを再分析。今後10年間における企業の具体的行動につながるようなビジョンに再構築した。持続可能な社会の実現に向け政治、経済、社会をどう変えるかをシンプルかつ網羅的に示した」
保険サービスで貢献へ
--このプロジェクトにも主体的に参加した
「プロジェクトが立ち上がったのは2019年4月。当社が正式に加わったのは同7月で、日本企業は4社が参加。特定のチームやグループに所属するのではなく、毎回、小規模なグループに分かれて活発に意見交換し、最終的にとりまとめた。私だけの考えではないが、他の参加者からも多様な意見が出た結果、当初の事務局案が修正されるということもあった」
--持続可能な社会に向けて注目する課題は
「気候変動と生物多様性だ。気候変動では、日本政府が50年に脱炭素社会を実現すると宣言した。そのためには技術革新だけでなく、保険サービスの提供を通じて貢献していくことも大事だ。生物多様性では、中国で今年開催されるCOP15(生物多様性条約第15回締約国会議)で採択予定のポスト愛知目標(生物多様性版パリ協定)の動向と企業による取り組みの本格化に注目している。当社が参加するサステナビリティー推進団体は、ポスト愛知のドラフト(草案)に対し野心的な目標に引き上げるよう提言している」(松岡健夫)
【プロフィル】村上歌奈子 むらかみ・かなこ 上智大卒。2011年日本興亜損害保険(現・損害保険ジャパン)入社。コマーシャルビジネス業務部賠償保険グループなどを経て18年4月からCSR室。神奈川県出身。