新型コロナウイルスが中東でも猛威を振るっている。パキスタンも含めた中東地域における新型コロナの感染者数は、2日午前8時時点(日本時間)で1191万8202人と世界の感染者数の9.2%にも達している。(畑中美樹)
同時点での中東地域の1週間の感染者の増加数は53万5638人で、1日平均では7万6519.7人増と前々週の1日平均5万人増超、前週の6万人増超をさらに上回っている。
気になるのは、ここに来て中東における新型コロナの感染者が、ペルシャ(アラビア)湾の王制・首長制の産油国において増えつつあることだ。
例えば、アラブ首長国連邦(UAE)の感染者数は46万3759人に達し、1週間で2万122人、その間の1日平均で2875人もの増加を記録している。そのUAEが増加しつつある新型コロナ対策として、新たに打ち出したのが国内でのワクチン製造である。
具体的には、UAEのアブドラ外務・国際協力相が、2日間の日程で来訪した中国の王毅外相との3月28日の会談で、新型コロナのワクチンを共同開発して、2021年中にアブダビで生産を開始することで合意した。
UAEの人工知能(AI)およびコンピュータークラウディング企業として知られる「グループ42(G42)」と、中国の国有製薬大手「中国医薬集団(シノファーム)」の合弁企業が、「ハヤト・バックス」と名付けたワクチンを手掛ける。
また、UAEを形成する7つの首長国の1つであるラス・アル・ハイマ首長国を本拠地とする湾岸製薬産業社(ジュルファー)がシノファームのワクチンを4月から生産するとの契約をG42医薬貿易と結んだことも明らかとなった。
なお、G42とシノファームとの合弁企業は翌29日、(1)アブダビ・ハリーファ産業ゾーン(KIZAD)内に建てられる新工場のワクチンの年産能力は2億回分(2)ハヤト・バックスワクチンは、アラブで生産される初の新型コロナのワクチン(3)合弁事業の一環としてG42とジュルファーの取引に基づいて、ハヤト・バックスワクチンの暫定生産がラス・アル・ハイマで開始-といった内容を盛り込んだ声明を発表している。
ちなみに、当初の生産量は月間200万回分となるとのことである。なお、ラス・アル・ハイマ政府は、ジュルファーの株式の12.24%を保有している。周知のように、UAE政府はG42を通じて昨年7月からシノファーム製ワクチンの第3段階臨床試験を開始しており、9月には最前線の医療従事者などへの投与を承認した。
さらに、UAE政府は、12月にシノファーム製ワクチンの一般国民向けの投与を始めて今日に至っている。
ただし、やや気になるのは、UAE保健省が今年3月になって、シノファーム製ワクチン投与者の一部が、2回投与したにもかかわらず十分な抗体を作ることができずに失敗したことから、3回目の投与を受けたことを明らかにした点である。
世界銀行のデータによれば、多少古くはなるが3月第1週時点での中東主要国の人口に占めるワクチン接種率は、UAEが約64%と最高水準で、続いてバーレーン約30%、モロッコ約12%、カタール約11%などとなっている。
【プロフィル】畑中美樹 はたなか・よしき 慶大経卒。富士銀行、中東経済研究所カイロ事務所長、国際経済研究所主席研究員、一般財団法人国際開発センターエネルギー・環境室長などを経て、現在、同室研究顧問。東京都出身。