一時は携帯電話市場で世界シェア3位となった韓国のLG電子のスマートフォンを含む携帯電話事業からの撤退は、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)など中国勢の激しい追い上げに耐えきれなくなったためだ。国内で独自の進化を遂げてきた日本メーカーも、多くが米アップルのスマホ「iPhone(アイフォーン)」の登場を機に撤退に追い込まれており、LGの決断は携帯電話市場での生き残りの厳しさを改めて示した。
LGは5日の声明で携帯電話市場について「信じられないほど競争が激しい」と説明した。米調査会社IDCによると、昨年の世界出荷台数のメーカー別シェアは韓国サムスン電子が20・6%と首位。2位はアップルの15・9%で、3位は14・6%の華為だった。4位と5位も中国勢が入り、LGはトップ5に入っていない。
LGの携帯電話事業の売り上げは総売上高の8・3%を占めるため、撤退による減収は避けられない。しかしLGは1月の段階で携帯電話事業の見通しについて「現在と将来の競争力を客観的に判断して方向性を見直す」としていた。
一方、日本の携帯電話大手の多くはすでに市場からの退場を強いられている。
日本の携帯電話の先駆けは、昭和60年にNTTが開発した携帯兼用の自動車電話「ショルダーホン」。その後、携帯の小型化が進み、平成11年にNTTドコモが始めた世界初のネット接続サービス「iモード」の大ヒットでカメラ付き携帯などが一気に普及した。ただ、世界市場のニーズとはかけ離れた機能も多く、国産の携帯は海外では売れない「ガラパゴス携帯(ガラケー)」とも呼ばれた。
そんな中、19(2007)年に発売されたiPhoneは、洗練されたデザインとアプリで機能を追加する革新性で世界市場を席巻。日本メーカーはスマホの開発に出遅れ、20年に三菱電機、25年にはNECとパナソニックが携帯電話事業から撤退し、富士通も30年に携帯電話事業子会社を投資ファンドに売却した。残る日本メーカーはソニー、京セラ、シャープの3社だが、シャープはすでに台湾・鴻海精密工業の傘下にある。
ただ、LGを撤退の決断に追い込んだ中国勢のうち華為は米国の禁輸措置の影響などでシェアは低下傾向。同じ中国で格安携帯電話を手掛ける小米科技(シャオミ)などに市場を奪われている。また、ソニーは高機能、京セラは高耐久性能の第5世代(5G)移動通信システム向けスマホをそれぞれ発売するなど、個性化での巻き返しに懸命だ。
携帯電話市場の先行きにはこれからも波乱が待ち受けていそうだ。
(桑原雄尚)