25日に福島県でスタートした東京五輪の聖火リレーで、同県浪江町を走る際に五輪史上初めて水素を燃料としたトーチがお目見えし、次世代エネルギーの活用を重視する日本政府の姿勢を国内外に向けてアピールした。政府は「2050年脱炭素化」を表明し、具体策「グリーン成長戦略」の中でも二酸化炭素(CO2)を排出しない水素活用を重点項目に掲げる。太陽光など再生可能エネルギーで水を電気分解し、水素をつくれればエネルギー自給ができるという利点もあり、多くの期待が集まる。
「水素は脱炭素化に向けた活用が大いに期待されているエネルギーで、水素トーチや運営車両として燃料電池車(FCV)が使用される聖火リレーは日本の水素関連技術を世界にPRするチャンスだ」。今回、聖火リレートーチに使う水素を供給し、東京2020ゴールドパートナーの石油元売り最大手、ENEOS(エネオス)担当者はこう喜ぶ。
同社が提供する水素は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を中心に昨年3月、浪江町に開設した「福島水素エネルギー研究フィールド」で製造されたもの。約7万枚の太陽光パネルで得られた電力で水を電気分解し、製造過程でもCO2を排出しない「グリーン水素」をつくる世界最大級の拠点で、日本の水素戦略の要ともいえる。
政府のグリーン成長戦略では、水素を発電や産業、運輸など幅広く活用する「カーボンニュートラルの鍵となる技術」と位置付け、30年に最大300万トン、50年に2000万トン程度導入することを目指している。
ただ、水素の活用には課題も多い。現状、水素ステーションでは1N立方メートル(ノルマルリューベ、標準状態での気体の体積)当たり100円程度と高価。これを50年に同20円以下と、ガス火力よりも発電コストを下げる目標を掲げる。また、水素を燃料とするFCVの導入量拡大や、水素ステーションなどのインフラ整備強化も不可欠だ。
梶山弘志経済産業相は「安価で豊富な水素供給に向け海外との連携や国内でも作っていく(体制を整える)」と意欲を示す。ただ、大量供給に向けた本格的な社会実装などはまさにこれから。水素の用途拡大やコストダウンをいかに図るか、政府の実行力が問われている。(那須慎一)