高論卓説

人材獲得に知恵絞る時代 自社の強み、経営者の理念が試される

 まだまだ続くコロナ禍。就職したものの会社に数回しか行ってないと答える新社会人。大学生においてもキャンパスには通えておらず孤独を感じるという声もよく耳にする。効率化を軸に進んでいくオンライン主流時代。無駄も多数発生するがリアルに人と会うことがいかに貴重だったのかと実感している人も多いはずだ。

 企業はオンライン、オフラインにかかわらず、存続に向けて良い人材を獲得しておきたいと思うのは当然のことである。しかしそこに立ちはだかるのは生産年齢人口の減少である。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、15歳から64歳の生産年齢人口は、2017年時点では7596万人。その後、40年になると5978万人となり総人口に占める割合が53.9%まで減少すると推測している。

 こういう現状で、人材難に悩まされるのが知名度の低い会社である。特に消費者相手の仕事ではなく、法人相手が主軸である企業は消費者から名前を知られていないケースが多い。つまり、就活生に知られていないということがそもそものネックとなる。

 知恵を絞り面白いアイデアを生み出し、危機を乗り越えたという事例もあるようだ。工事作業量は増えているのに、作業員の減少に悩まされていた北陸電気工事と平野電業のケースであるが、5年間で採用者は0人という現実だった。高所での作業など敬遠される材料が多かったわけである。そこで富山県南砺市が譲渡先を公募していたスポーツクライミング施設の譲渡先となり、改装してオープン。もちろん目的はここに集まるクライマーを送電線工事の社員に勧誘し、人材確保を図ることである。実際、この取り組みがうまくいき、人材確保もできているようだ。通常なら敬遠されがちな高所作業も「ロッククライマーならば適正が高いだろう」と判断したのは、戦略として功を奏している。

 また別の事例では、マージャン採用を行なっている企業もある。オフィスのITインフラを支援している東証1部上場企業である。5年ほど前から始めたのだが、マージャンの成績がよければ最終面接に臨めるという。なぜマージャンなのか。そこには明確な理由があるようで、マナーが見える、駆け引きが見える、機嫌が見える、周りとどうコミュニケーションをとるかが見えるそうだ。

 つまり、マージャンの牌を打つだけで非常に多くの情報を得られると企業側が考えているということである。いわば、地頭力が見えるのだろう。よく昔、車を運転させれば本性が分かるとか、ゴルフをさせれば性格が分かるといわれていたがそれと似た感覚かもしれない。

 筆者の知り合いが中小企業の採用サイトや会社案内パンフレットを制作している。設備工事会社、塗装会社などが多いようだ。認知度がなければ、待っていてもよい人材は来てくれない。先日、その知り合いがとても興味深いことを語っていた。「今は社長の理念が重要だ。就活生の親は経営者の理念やビジョンを読み込んでいる」とのこと。共感される理念を本気で掲げ、事業に取り組まなければならない。自社の本当の強みを発見し、どんな人材を獲得していかなければならないのか。明確にあぶり出してくれる時代となっているのではないだろうか。

【プロフィル】芝蘭友(しらん・ゆう)

 ストーリー戦略コンサルタント。グロービス経営大学院修士課程修了。経営学修士(MBA)。うぃずあっぷを2008年に設立し代表取締役に就任。大阪府出身。著書に『転職・副業・起業で夢が実現!安く売るより高く売れたい』(WAVE出版)、『死ぬまでに一度は読みたいビジネス名著280の言葉』(かんき出版)がある。

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