鳥取大学客員教授・後谷陽一弁理士に聞く
バイデン米政権が誕生。前政権の知財を前面に出した対中戦略はどうなるか。日本の知財戦略のあり方は。中国知財問題の第一人者で鳥取大学客員教授の後谷陽一弁理士(後谷国際特許事務所)に聞いた。
--前米政権の対中知財政策の評価は
「中国に危機感を持ち行動したことは正解だった。知財とは、企業戦略だけではなく、国家戦略としても使うべきであることを再認識した。実際の交渉では、知財だけでは中国に勝てないとみて、営業秘密や機密の窃取などいろいろな事柄を絡め包括的なものにした」
--知財だけでは勝てないというのは
「第5世代(5G)移動通信システムを含む通信技術、人工知能(AI)、クラウドなどの技術が今後、力を持ち、IoT(モノのインターネット)であらゆる製品に関わってくる。核心技術を持つ企業は最終製品を持つ企業全てとライセンス交渉ができる勝ち組だが、国際特許出願トップテンに入る米国企業は1社。総じて欧州や中国の企業が優勢。加えて米国企業は中国や欧州の企業と5Gの標準を一緒に作ってきた経緯があるので、知財だけでは米国は争いを起こせなかった」
--バイデン政権ではどうなるとみているか
「変わらず中国を攻めたいだろう。現在、中国はワクチン外交を始めた。確かに医薬承認基準は甘いかもしれないので、その効き目に懐疑的な声も聞く。だが技術面や知財面では追いついてきている。今や中国の製薬会社は米欧日の企業で経験を積んだ研究者や留学組の集合体だ。製薬も5Gと同じ状況になりつつある。全製品が中国製に置き換わる怖さを米国は感じているはず」
--日本企業はどうすべきか
「知財戦略の見直しが必要。例えば過去、日本企業は多額の資金を費やし世界で数多くの特許を得てきた。事業が負けつつあるときは事業整理で過去の特許を捨てる一方、高価な先端技術をオープンイノベーションや事業買収で補充、獲得した。だが中国企業は日本企業の不要特許を活用しながら成長し、追いついてきた」
--保有特許の活用価値を精査すべきだと
「事業の優位性維持や確保のため保有特許を生かす検討が十分ではない。IoTで核心的技術の特許がないなら保有特許をどう生かすか。企業で閉じず、工業会で業界の技術や特許を集約化して生かそうという動きも弱い。個々の技術、特許を世界や業界の動きの中で俯瞰(ふかん)して評価し、どうすれば勝てるかを考えることだ」(知財情報&戦略システム 中岡浩)