中国の自動車市場は、新型コロナウイルスの流行によって工場停止を余儀なくされ、大きな打撃を受けたが、再稼働後は需要が徐々に回復し、元に戻りつつある。とりわけ乗用車販売では、トヨタ自動車など日系メーカーが好調で、長い間トップだったフォルクスワーゲン(VW)などドイツ系を追い抜かそうかという勢いである。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)
中でも売れ行きの伸びているのがトヨタである。発表によると、トヨタの昨年の中国での新車販売台数は、前年比約11%増の約180万台だった。今年1月はさらに前年同月比の伸び率が30%を超えるほどで、絶好調の売れ行きである。トヨタの合弁相手である第一汽車集団や広州汽車集団の販売ランキングも上がってきている。
トヨタといえば、中国が1980年代に入って外資導入に動き始めたころ、中国市場にあまり関心がなかった。中国はトヨタの進出を希望したが、トヨタは断った。当時のトヨタは米国市場に掛かりっきりだったからだ。かなり遅れて中国市場にも進出はするが、中国側からは「トヨタは当初、三顧の礼を尽くしても来なかった」としばしば皮肉られた。こうしたいきさつもあって、トヨタは中国市場で苦戦を強いられた。
それでも次第に地力を出してきた。北京でタクシーの運転手に「どこの車がよいか」と聞くと、「それはトヨタだ。トヨタの車の部品は多少乱暴に扱っても壊れない」との返事が返ってきたのを覚えている。
何年か前に、広州にあるトヨタの工場を参観して販売戦略を聞いた。トヨタは先進的な販売管理システムを専売店に導入した。顧客情報や車両情報をデータ化し、販売店スタッフへの教育制度も強化しているとのことだった。これらの地道な戦略が顧客からの信頼を徐々に得ていったのだろう。
だが、今後の展望となると、楽観は許されない。中国は2035年までに新エネルギー車(NEV)の販売を「主流」、つまり半分以上にするとの意欲的な目標を掲げているからだ。この目標はあるいは前倒しになり、NEVへの移行がより早まるかもしれない。
トヨタは激戦に勝ち抜けるだろうか。得意とするハイブリッド車(HV)については、中国側がしばらく存続させていくことに方針変更となったが、これとて時間稼ぎでしかない。よほどNEVの開発を急がなければ、いまの好調さも一時的なものに終わってしまう。