主な鉄道各社の令和2年4~12月期決算が12日までに出そろった。新型コロナウイルス禍が直撃し、首都圏の私鉄大手9社全社が最終赤字となった。各社は本業の鉄道事業だけでなく、非鉄道事業の中心であるホテル事業でも大きな損失を被っている。不動産など旅客利用に左右されない事業のほか、コロナ禍の新たな通勤サービスなどさまざまな新規事業も展開。生き残りをかけた模索が続いている。
首都圏大手私鉄の東急と小田急電鉄は10日、3年3月期連結決算の業績予想を下方修正した。1月に再発令された緊急事態宣言を受け、鉄道だけでなくホテルの利用者の減少も今後続くと見込んだためだ。東急は2年4~12月期決算でも、ホテル事業の収益の落ち込みが鉄道事業の落ち込みを超えた。
「運輸や輸送サービスと生活やIT・Suicaサービスで5対5を目指していく」。JR東日本の深沢祐二社長は9日の記者会見で、新型コロナ後も鉄道利用者はコロナ前と同水準に戻らないという前提で、事業の多角化を進める考えを強調。9年までに鉄道と非鉄道事業の割合を同程度にするとの目標を示した。
ほかのJRでは非鉄道事業の主力として推進してきた不動産事業を強化する動きもある。JR西日本は駅チカだけでなく駅から離れた場所の商業施設やマンション販売に力を入れる。JR九州は、九州以外の物件も対象とする不動産投資信託の組成を検討している。
また各社はコロナ禍の働き方や生活スタイルの変化に対応した新サービスも展開。コロナ禍でも住民に選ばれる沿線の魅力向上を目指す。西武ホールディングスは8日から池袋など3駅に設置したロッカーで、専用のECサイトで注文した西武百貨店のスイーツなどを受け取れるサービス「BOPISTA(ボピスタ)」の実験を開始した。東急も田園都市線住民向けの新たな通勤サービス「DENTO(デント)」の実験を開始。通勤高速バスや相乗りタクシーなどを運行し、密を避けた通勤サービスを提供している。
ただ各社は収益全体の大半を占める鉄道事業で業績を改善しなければ事業全体が立ち行かず、今後も終電の繰り上げなどのコスト削減が避けられない。JR東日本や東海は2年度中に広告費の抑制などで数百億円規模のコストカットを目指す方針だ。(大坪玲央)