「プロ経営者」という用語は、企業を渡り歩くかのように、社外から招聘されて経営トップに就く人を指すことが多い。この言葉が流布した背景には、社内の生え抜き経営者よりも、他社からヘッドハントされる経営者の方が、プロフェッショナルレベルが高いという意味が含まれているように思える。
会社の規模に関係なく、経営スキルのプロフェッショナルレベルを高めることは必要だ。プロフェッショナルレベルを高めるためには、MBA(経営学修士)を取得しなければならないとか、特別な訓練を長期間にわたって受けなければならないと思われがちだ。しかし、20年来経営実践スキルを向上させる演習プログラムを実施してきて、キャリア形成が社内だろうが社外であろうが、プロフェッショナルレベルの高い人たちが実践している9つのギャップ解消スキルに着目している。
1つ目は、人と人とのモチベーションファクター(意欲を高める要素)のギャップを解消するスキルだ。モチベーションファクターとして、目標達成、自律裁量、地位権限、他者協調、安定保障、公私調和のうち、どれが強いかを見極める。相手と自分のモチベーションファクターのギャップを見極め、相手のそれを組み込んで対話をして、ギャップを顕在化させないスキルだ。よく言われる、「人に応じて話し方を変える」ことができる人を指す。
2つ目は組織ごとのモチベーションファクターのギャップを解消できるスキルだ。組織によっては、前出の6つのさまざまなモチベーションファクターを、バランスよく配置してメンバー構成した方がよい場合がある。逆に、事業革新を担うチームは自律裁量、リスク管理するチームは安定保障というように、特定のモチベーションファクターの人を多めに配置した方がよい場合もある。
前者はモチベーションファクターの乖離(かいり)度が高い、後者は低いといえる。「組織開発ができるかどうか」をひもとくと、このスキルを発揮できるかどうかにかかっている。
3つ目は顧客と営業担当者、4つ目はタスクとメンバーそれぞれのモチベーションファクターのギャップを解消するスキルだ。営業推進、業務効率を加速できるかは、これらのスキルによる。
さらに、リーダーとメンバーの優先順位基準のギャップを放置しないで、解消できるスキル(5つ目)、優先順位基準がタスクの重要性と緊急性のどちらかに偏っていないかというギャップを解消するスキル(6つ目)は、生産性向上のために必要だ。
特にリモートワークが一般化した今日においては、説明手法(7つ目)と返答手法(8つ目)の、相手と自分のギャップを解消できるかが重要度を増す。結論から先に逆算して聞きたい人に、丁寧に経過をたどって話をしても、相手の理解を得られにくい。反復したり、要約したり、例示しながら返答すると、相手の説明と自分の理解に齟齬(そご)がないか確認しやすくなる。
私は説明手法も返答手法も7つずつモデル化して、相手の好みと自分の好みを合わせる演習を行っている。こうしたスキルを駆使していくと、ボトムアップのリーダーシップ力が高まることが分かっている。ボトムアップとトップダウンのウエートをコントロールできるかどうかが9つ目のギャップ解消スキルだ。全てを一度に身に付けようとしてもできないが、一つのスキルを発揮できるようになるためには、2時間あれば十分だ。ギャップを放置してしまうことこそが問題だ。
【プロフィル】山口博
やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国大非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。