新型コロナウイルス感染症による混乱はいまだに収束していない。厳しい収益・事業活動環境の中、企業は事業や技術を守るため特許出願を続けているが、少しでも費用や手間を抑え、確実に権利を得るための裏技がある。特定登録調査機関の活用だ。
特許庁の審査官が特許審査の際に資料として使う先行技術調査報告の多くは、特許庁が民間へ外注している。外注先は現在9社。登録調査機関として特許庁に登録されている。特定登録調査機関は同レベルの調査報告を企業へ提供する機関で現在、登録調査機関9社のうちの3社(パソナグループ、工業所有権協力センター、技術トランスファーサービス)が特許庁に登録されている。
2019年度の特許庁の先行技術調査に関する予算は約260億円、登録調査機関9社の受託実績は約14万6000件に上るが、同年度に特定登録調査機関3社が企業から受託したのは約800件にすぎない。登録調査機関で活動する調査員は審査官との面談などで特許庁の指導を受けて仕事をしている。審査官の考えや審査実務を知るプロだ。その能力は特定登録調査機関でも生かされている。
特定登録調査機関を活用する利点は、自社の特許出願について審査請求をする前にその調査報告によって権利化の可能性を予見でき、審査請求するか取り下げるかの判断がしやすくなる点だ。審査請求前に出願内容を補正・追加しておくことで審査官とのやり取りが減り、拒絶査定の回避、早期査定の獲得、弁理士費用の削減にもつながる。特許公報で他社に自社技術を無駄に公開するリスクも減らせる。費用は各社違うが、1特許当たり十数万円ほどだ。中小企業でも手の届く範囲にある。
特定登録調査機関の効用は、費用が数倍となる海外出願時にはさらに大きくなる。審査推進室の仁科雅弘室長は「今後、企業などへ広く紹介していきたい」と話す。企業による特定登録調査機関の活用が拡大すれば、特許庁にもメリットがあると考えられる。企業が特定登録調査機関を活用して審査請求を厳選してくれれば、審査官の業務負担が軽減されるからだ。特許庁は、企業が審査請求の際に特定登録調査機関の調査報告を提出すると審査請求料の減免措置を設けている。
特許庁はシステム経費など財政上の問題から、21年度に先行技術調査外注費を1割(25億円)削減する計画。今後、第4、第5の特定登録調査機関が登場する可能性もありそうだ。(知財情報&戦略システム 中岡浩)
特許出願の審査請求料(請求項数/通常/特定登録調査機関を活用)
1/14万2000(12万2000)/11万3200(9万7200)
5/15万8000(13万8000)/12万6000(11万)
10/17万8000(15万8000)/14万2000(12万6000)
15/19万8000(17万8000)/15万8000(14万2000)
20/21万8000(19万8000)/17万4000(15万8000)
(注)単位:円。カッコ内は2019年3月以前の出願の場合。請求項数とは特許請求の範囲の項目数