米アップルなど「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業が好業績をたたき出す中、電気自動車(EV)専業の米テスラも創業以来初の黒字転換に成功している。テスラのEVは「走るスマートフォン」とも称され、自動車業界の常識を塗り替える事業を展開。米中対立の最中でも中国販売を伸ばすなど、GAFA同様に勢いづく。ただ近年の業績は環境規制強化に伴う本業以外での収益でかさ上げされているほか、今後は競合激化も予想され、先行きには不安も残る。
「50%超の成長を続ける」
テスラのマスク最高経営責任者(CEO)は2020年12月期決算を発表した1月27日、今後数年間の業績に自信をみせた。20年12月期の最終利益は7億2100万ドル(約750億円)の黒字。創業17年のテスラは先行投資などが要因で赤字続きだったが、通期で初の黒字を達成した。
テスラの20年の世界販売台数は49万9647台で、世界首位のトヨタ自動車グループの約20分の1。しかしEVに施されたさまざまな仕掛けは、従来の自動車のイメージを覆す先進性を有している。
なかでも特徴的なのは有料で利用できるシステム「オーバー・ザ・エアー」(OTA)だ。スマホの基本ソフトやアプリを更新するように、インターネットを通じて車両の空調性能やブレーキ出力などのソフトウエアを更新し、機能を追加できる。車内のスイッチの数は限られ、カーナビや走行性の調整などは、運転席の横にあるタッチパネルディスプレーで行う。テスラ車が走るスマホとも称されるゆえんだ。
中国事業の強化も功を奏している。19年末には初の米国外での生産拠点となる上海工場で、量販車「モデル3」の出荷を始めた。国営新華社通信によると、モデル3の20年の年間販売台数は約13万7千台で、中国でのEVなど新エネルギー車の販売で首位。上海証券報(電子版)は「高級乗用車市場での業績は引き続き上昇傾向にある」と分析している。
ただ、テスラの利益は本業以外の要因でかさ上げされている側面もある。米西部カリフォルニアなど11州で設定されている無排出ガス車(ZEV)導入基準に関連して、巨額の「ZEV排出枠」の売却代金が転がり込んでいるためだ。
11州は自動車メーカーに販売台数の一定比率をEVなどZEVとするよう義務付けている。この基準を達成できないメーカーは罰金を払うか、テスラなどの基準に到達したメーカーから、ZEV排出枠を購入しなければならない。
テスラの20年通期のZEV排出枠売却による収入は15億8千万ドルで、前年同期の2・7倍に達した。16年から5年間のZEV排出枠の累計収入は32億ドルと業績をかさ上げしている。
また米メディアによると、テスラは3月末から約13万5千台のリコール(回収・無償修理)を実施する方針。タッチパネルの不具合が原因といい、自慢の先進性も万全ではない。
さらに新エネ車普及を進める中国政府は現地メーカーへの支援を強化するとの見方が出ており、中国市場での勢いがそがれるおそれもある。トヨタや米ゼネラル・モーターズ(GM)などライバルも電動化を推進しており、規模で劣るテスラが生き残る道は平(へい)坦(たん)ではない。(宇野貴文、ワシントン 塩原永久、北京 三塚聖平)