令和2年の業界統計には、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う消費者行動の変化が色濃く出た。感染を避けるため、人の移動や接触を伴う需要が大幅に減退した。一方、自宅などを消費の舞台とする「巣ごもり需要」が拡大。業態ごとに業績の明暗が分かれる“二極化経済”が鮮明となった。直近でも、感染再拡大などが消費回復の足かせとなっている。各業界は、いつ収束するのか見通せない新型コロナ禍に対応した新たなサービス提供など、課題を背負い続けている。
外食「厳しい1年」「飲食店だけ標的」
「緊急事態宣言に伴う休業や時短営業で厳しい1年だった」。居酒屋チェーン大手、鳥貴族の担当者は昨年をこう振り返る。消費者の外出自粛やテレワークの普及も相まって、昨年4月の既存店売上高は前年同月比96・1%減とほぼ消失。10月は6・9%減まで持ち直したが、12月には再び48・1%減となった。
2年の外食売上高は前年比15・1%減と調査開始以来となる最大の下げ幅で、夜間営業の多いパブ・居酒屋業態は49・5%減とほぼ半減した。2度目の緊急事態宣言で休業を決めた東京都心のスナック経営者は「飲食店だけを標的にするのは納得がいかない」と憤慨する。
外食業界だけでなく、人の移動や集客に依存した業態は、大幅な需要減に見舞われた。海外からの往来は激減し、訪日外国人旅行者数は87・1%減となり、航空や観光業界は大打撃を受けた。都市部の一等地に大型店舗を構え、広域から集客する百貨店の売上高も45年ぶりの低水準に沈んだ。
ホームベーカリーからネット通販まで
一方、外出自粛の広がりは自宅生活を充実させようとする新需要を生み出した。この「巣ごもり需要」の波に乗ったのが家電業界だ。白物家電出荷額は平成8年以来、24年ぶりの高水準となった。パナソニックはホームベーカリーの販売数が前年の約2倍。家庭で食事をとる機会の増加を受け、食器洗い乾燥機の販売数も約1・5倍に伸びた。
テレワーク向けノートパソコンの販売も拡大。富士通の磯部武司最高財務責任者(CFO)は「ニューノーマル(新常態)に対応するためのプラス需要も出てきている」と話す。
「巣ごもり」を支えたのがインターネット通販などの非対面サービスだ。昨年12月の楽天市場の取扱高は前年の約1・5倍。三木谷浩史会長兼社長は「この傾向はさらに加速していく」と語る。消費者の行動範囲は主に自宅周辺に縮小し、食品や日用品を扱うスーパーが売り上げを伸ばした。
消費者は自宅での娯楽を充実させていく。任天堂の主力ゲーム機「ニンテンドースイッチ」のソフトで昨年3月に発売した「あつまれ どうぶつの森」が世界的にヒット。スイッチも発売4年目にして過去最高の推定年間販売台数595万台を記録した。
緩慢な回復の足取り
消費動向は昨年4~5月を底に緩やかな回復基調に移った。国民に一律10万円を配った特別定額給付金なども回復を下支えし、株式市場は日本銀行による上場投資信託(ETF)の買い入れやワクチン開発への期待から上昇。年末終値は2万7444円と約30年ぶりの水準に達した。
ただ回復の足取りは緩慢だ。昨秋から本格化した感染流行の「第3波」や、所得環境や雇用情勢の悪化も加わって、スーパー関係者は「値引きに対する消費者の感度は高くなっている」と指摘する。
渡辺努・東大経済学部長は「新型コロナは外食から自宅調理、映画館でなくネット配信と『代替消費』を加速させたが、“代替先”の付加価値は低く、全体の消費総額を落としている」と分析している。