高論卓説

日本の優れた鉄道インフラ 駅地下商店街も発展、都市力向上に貢献

 毎日の通勤と仕事に東京メトロを使っているが、主要駅が昨年リニューアルされた。銀座駅などは構内の壁や柱が全て更新されて美しくなった上、利用しやすくなった。JR東京駅構内の拡張工事も昨年中に完了し、地下商店街が拡大し、外装も一新された。昨夏に開催予定であった東京五輪に備えて工事が行われた結果である。

 五輪は延期されたが、リニューアル工事は実施され、交通インフラが一層向上したことは喜ばしい。1964年の東京五輪前に、都内のインフラ建設が相次ぎ、街の様子が見違えるほど新しくなったことを思い出した。

 改めて言うまでもなく、日本の鉄道インフラは、他国に比べて各段に優れている。例えばイギリスの鉄道や地下鉄には各駅に時刻表がなく、電光掲示板で到着まで後何分と示されるだけであり、遅延の場合でも、乗客にはすぐに知らされないことが多く、駅の照明も暗い。

 上海の地下鉄の座席は全てプラスチック製で、これはクッションにすると乗客が切り取って持っていってしまうからだという説明を、現地の人から以前出張時に聞いたことがある。ドイツの中核都市で高速鉄道に乗車したとき、ホームをつなぐ地下道の照明が、真っ暗に近かったのを覚えている。

 ラッシュアワーの丸ノ内線や銀座線のように、清潔で明るいホームに1時間に20本以上の電車が遅れずに来るというのは恐らく日本以外にはないのではなかろうか。新幹線の時刻表は分単位であるが、実際は15秒単位で管理しているそうである。

 鉄道インフラと切り離せないのが、鉄道駅と直結した地下商店街である。日本の主要駅には必ず大規模な地下商店街が付設されており、乗客にとって買い物の利便性が高い。鉄道駅直結の大規模な地下商店街は日本以外では欧州、北米、アジアでも筆者は見たことがない。

 ロンドン都心の地下鉄中核駅であるピカデリー・サーカスでも地下商店街の規模は日本に比べ驚くほど小さい。地下街の利用度はその国の治安の水準に影響され、治安の悪い外国では地下街の利用が進まないのではないか。地下街が世界で最も発達している日本は、世界で最も治安が優れているからであろう。

 昨年11月、米大手経済紙、グローバル・ファイナンスは「住みやすい都市」の2020年ランキングを発表したが、東京はロンドン、米ニューヨークを引き離し首位であった。新型コロナウイルスによる死者数が少ないことと、先進的な交通機関で高評価を得ている。

 日本の不動産大手のシンクタンクは同12月、世界都市総合力ランキングを発表し、新型コロナ以前において東京がロンドン、ニューヨークに次いで世界3位だったと発表している。交通アクセスおよび都市空間の清潔さで高得点を得ている。

 また日本の新幹線が、米テキサス州のダラス~ヒューストン間(約385キロ)に導入されることが決まり、今年中にも着工される見通しである。車だと5時間かかる距離を約1時間半でつなぐ計画である。

 先述の具体例や調査結果でも明らかなように鉄道は国の経済的・文化的水準を物語るものである。国内で毎日利用している交通インフラが実は世界最高水準であることを知らない人が大半であろうが、日本国民はこれに限らず、他にもさまざまな恩恵を享受していることに気が付いているだろうか。

【プロフィル】杉山仁

 すぎやま・ひとし JPリサーチ&コンサルティング顧問。一橋大卒、1972年、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。米英勤務11年。海外M&Aと買収後経営に精通する。経済産業省の「我が国企業による海外M&A研究会報告書」作成に有識者委員として参加。著書に「日本一わかりやすい海外M&A入門」のほか、M&Aと買収後経営に関する論文執筆や講演多数。

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