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日本が原子力を放棄したら…「一国安全主義」では通らない難題 (1/2ページ)

 間もなく東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から10年になるが、事故の後遺症はいまだ癒えず、日本の原子力は逆境で難渋している。おまけに10月末の菅義偉首相の「温室効果ガス2050年実質ゼロ」宣言を受け、再生可能エネルギー・ブームが一段と加速し、今や原子力は瀕死(ひんし)の状態に追い込まれている。(外交評論家、エネルギー戦略研究会会長・金子熊夫)

 そもそも原子力抜きでは脱炭素化目標の達成は到底無理であるのに、首相も他の政治家たちも、世論を気にしてか、原子力の重要性を口にしようとはしない。一方、反原発派は「とにかく原子力は危険だから反対だ」の一点張りで、世の中から原発さえなくなれば万事OKといわんばかり。福島事故後日本の原発の安全性が格段に改善されたことには全く無関心のようだ。

 中国製の輸出が急増へ

 百歩譲って、日本国内はそれで何とかなるかもしれないが、果たして世界はどうなっているのか。世界的にみると脱原発一色ではない。特にアジアでは、中国が国内で大規模な原発建設計画を進めながら、国産炉「華龍1号」を武器に原発輸出にも異常なほど力を入れている。かつて日本が長年原発導入計画を支援してきた国々、ベトナム、インド、トルコ、英国などでは、日本企業が次々と撤退した後、中国が触手を動かしている。現に英国では、日立関連企業が手放したアングルシー原発計画は中国の手に渡るようだ。中国は英国での実績を足掛かりに、アジアやアフリカ、南米などへの原発輸出を狙っており、早晩中国製の原子炉が世界中に出現するだろう。

 途上国側でも、パリ協定で排ガス規制が厳しくなり、石炭火力発電がダメとなれば、原子力発電を選択せざるを得なくなるが、日本製などに比べはるかに安価な中国製原子炉は魅力的だ。中国は「一帯一路」政策の下、原発輸出を目玉品目にしており、さまざまな便宜を図っているからなおさらだ。

 拡散の懸念ぬぐえず

 しかし、それはそれで、ビジネス本位だから他国がとやかく容喙(ようかい)すべきではないかもしれないが、原発ビジネスは普通のビジネスとは本質的に違う面があることを忘れてはならない。

 いうまでもなく、原子力発電が許されるのはそれがもっぱら「平和利用」に限定されているからであって、軍事転用、つまり原発用の核燃料が核兵器製造に転用されることは国際法で厳しく禁じられている。「核不拡散条約(NPT)」はまさにそのための条約であり、国際原子力機関(IAEA)は、軍事転用を防ぐための「保障措置」(核査察など)を条約締約国のあらゆる原子力活動に課している。

 日本は「非核三原則」の下、NPT締約国として、このIAEA保障措置を最も厳格に受け入れている国である。従って、日本から輸出される原子炉、関連機器、核燃料などには、輸入国で保障措置の適用が当然義務付けられる仕組みになっている。

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