楽天モバイルが正念場を迎えている。政府の圧力で、携帯大手による値下げ競争が活発化、価格面での優位性が失われ始めているのに加え、KDDI(au)の回線から自社回線への切り替えが始まる“独り立ち”の時期も迫っているためだ。窮地に立たされた楽天が勝負どころと見据えるのが第5世代(5G)移動通信システムだ。鍵を握る楽天の5G回線と独自端末の実力を記者が検証した。
通信速度の速さ実感
検証に使ったのは、楽天が独自に開発したスマートフォン「楽天ビッグ」。中国通信機器大手、中興通訊(ZTE)の5Gスマホをベースにし、税込み価格が6万9800円と5G端末としては破格の安値となっている。
カメラのレンズなどで画面の一部が欠ける「ノッチ」のない全面ディスプレーを採用。ホームボタンや「戻る」ボタンは画面上に仮想ボタンとして表示され、動画などを表示する場合は消えるため、6.9インチの大画面を最大限生かせるなど、動画視聴を意識した設計だ。
楽天が公表している都内の5Gの対象エリアは、世田谷区の本社周辺と板橋区板橋3丁目周辺の2カ所。まずは世田谷区の状況を調べるために11月下旬、東急電鉄二子玉川駅を訪れた。
電車から降りるとホームの中ほどで回線が4Gから5Gに自動で切り替わった。駅構内では5Gが安定しておらず、頻繁に4Gと切り替わる。
改札を抜け、屋外に出ると5G回線が安定。通信速度はダウンロードで4Gの約3~4倍の毎秒百数十メガビット(メガは100万)を計測した。5Gは4Gの10倍以上といわれるため、もの足りなさはあるが、約500メガバイトの映画をダウンロードしてみると、4Gでは5分ほどかかるところを三十数秒で完了するなど、速さは実感できた。
5Gは電波が障害物に遮られやすい特徴があるが、駅に隣接する商業施設の中や周辺の商店街の細い路地なども含め、約1キロ四方で5G回線は安定しており、基地局の整備に力を入れていることがうかがえる。
楽天はクラウドを使った「仮想化」と呼ぶ技術を世界で初めて通信網に全面採用しているが、4Gと5Gが切り替わっても動画などが途切れることはなく、技術的な問題がないことも確認できた。
一方、同時期に訪れた板橋3丁目周辺では、対象エリアに入ると、一時的に5Gの電波をつかんだが、すぐに4Gに切り替わった。その後は自動では5Gに切り替わらず、端末を再起動させると数十秒だけ5Gの電波をつかむという状況を繰り返した。計測した速度は毎秒十数メガビットと、4Gの半分以下の速度しか出ておらず、全国で5Gサービスを展開するための基地局整備がいかに難しいかを如実に表す結果となった。
基地局整備で挽回も
思っていたよりは悪くない、というのが今回の印象だ。ただ、5Gが使えるエリアは6都道府県の一部と少なく、楽天ユーザーでも5Gの電波を実感できた人はまだ少ないはずだ。
それ以上に、楽天は4Gでも、十分な基地局整備ができていないという課題がある。楽天の4Gの人口カバー率は10月時点で全国63.1%、都内87.4%。カバーできていないエリアは、KDDI(au)から基地局などを借りる「ローミング(乗り入れ)契約」で補っている。
それでも2021年3月には全国70%、同年夏には96%を目標に基地局整備を急いでおり、念願の“独り立ち”も近づいている。KDDIとは人口カバー率が70%を超えた時点で協議を始めることにしており、10月下旬から、都内と大阪府、奈良県の一部でKDDIとのローミングの見直しを始めた。