菅義偉首相が2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標を掲げたことを受け、総合商社各社も脱炭素の取り組みを強化している。三菱商事は、全事業で低・脱炭素化を図る「エネルギートランスフォーメーション(EX)」を発表し、エネルギー転換を収益事業にする戦略を打ち出した。各国政府も、脱炭素化の動きを強めており、関連技術や事業は、今後の世界規模での成長分野となるだけに、各社ともベンチャー企業への出資などを通じ、環境対応を事業化する「グリーン成長」を目指す。
総合商社の既存事業では発電用の石炭の権益を保有する。また、温室効果ガス排出が避けれない液化天然ガス(LNG)事業では、長期安定供給責任の役割もあり、脱炭素は難しい側面もある。
そこで注目するのが、温室効果ガスの排出のない水素エネルギーだ。三井物産は、米カリフォルニア州で水素ステーションを展開するスタートアップ企業との協業を強化する。今後、燃料電池車が、商用車分野でも拡大するとみており、水素のバリューチェーン構築も図っていく。豊田通商は、小型燃料電池では世界シェア首位の独SFCエナジーと日本での独占販売契約を結び、ディーゼル発電機の代替需要として、水素活用を提案する。
同時に、各社が重視するのがCO2の回収や有効活用だ。丸紅は火力発電所などで発生する排ガスからCO2を回収する技術を持つ英国企業に出資。コスト面での優位性があるとされ、事業化を進める。また、三菱商事ではCO2をコンクリートに固定化する技術を持つ米ベンチャー企業との協業を進める。
個別事業の取り組みだけでなく、企業としてカーボンニュートラル目標を掲げる動きもある。住友商事が2050年に事業活動でのカーボンニュートラル化を長期目標としたほか、丸紅は来年移転予定の新本社ビルの電力を100%CO2フリーとする方針だ。伊藤忠商事も来年にも目標を設定する。
総合商社は多様な事業を展開しており、単独での脱炭素化は難しく、技術面なども含め協業を拡大して対応すると同時に、洋上風力発電などの再生可能エネルギー権益の拡大も戦略としている。(平尾孝)
■総合商社の脱炭素に向けた主な取り組み
三菱商事 エネルギートランスフォーメーション概念を公表
CO2を原料とするパラキシレン製造技術の共同開発
伊藤忠商事 航空用再生可能資源由来燃料事業をフィンランド社と共同で実施
三井物産 米加州の水素ステーション事業者に出資し、協業を強化
住友商事 2050年までに事業のカーボンニュートラル化の目標公表
水電気分解による水素製造技術をもつイスラエル社出資
丸紅 来年移転の本社ビルでは100%CO2フリーの電力に
火力発電所の排ガスからCO2を回収する技術持つ英社に出資
豊田通商 独の小型燃料電池メーカーと日本での独占販売契約締結
双日 火力発電所の排ガスからCO2を吸収し炭酸塩にする研究に参画