テクノロジー

「ローカル5G」活用で先進技術開発へ 九電系通信会社と九工大が挑戦

 九州電力系通信会社「QTnet」(福岡市)が、九州工業大と連携し、限られたエリアで第5世代(5G)移動通信システムを使える新技術「ローカル5G」を使った実証事業を始めた。大容量、低遅延、多端末同時接続という5G特性を最大限活用し、産業用機器の制御や視覚障害者向けの経路案内システムの開発などを進める。(中村雅和)

 ローカル5G環境はQTnetが免許を受け、九工大戸畑キャンパス(北九州市戸畑区)に整備した。九工大が進める「未来思考キャンパス構想」の一環で、学生だけでなく、5G環境を利用した新たなサービス開発を狙う民間企業にも開放する。

 今回、QTnetが免許を受けたミリ波(28ギガヘルツ帯)は、障害物に弱い性質があるため、意図しない電波漏洩(ろうえい)を防ぎやすい。また、Wi-Fiなど既存の無線通信と比べセキュリティー面で強みをもつ。この点に着目した実証事業が企業の工場などで稼働する産業用機械の無線化だ。

 産業用機械は情報を収集するセンサーと、それをもとに工作などを担うロボットに大別される。有線で接続、固定されているこれらの機器を無線化できれば、生産品目や稼働状況に応じた柔軟なレイアウトが可能になる。さらに、機械を操作、監視するオペレーターを、ネットワークでつながった遠隔地に配置することもあり得る。

 この実証事業の責任者で九工大の西田健特任教授は「ローカル5Gはセキュリティー面はもちろん、多くの機器を同時に接続した際の通信安定性でも、既存の無線通信と比べて優秀だ」と説明する。

 金網に囲われた専用スペースでは、センサーとロボット両方を無線化して実験を進める。パソコン上から指示を出すと、ロボットが部品を保管ボックスからベルトコンベヤー上にスムーズに移動させていった。

 西田氏は「ロボットやセンサー自体は既存の設備のままで良く、通信方法だけを変えるだけだが、工場の姿を大きく変える可能性がある」と強調する。

 また、QTnetは、学内食堂の利用者数をリアルタイムで把握し、混雑状況を表示するシステムの開発も進める。同社の竹田純哉技術開発グループ長は「大容量データのリアルタイム解析は5G環境でこそ実現できる」と説明する。

 ほかにも、高速通信を活用したサービスの開発が進む。位置情報などを基に、視覚障害者に音声で道案内したり、人間や車の接近を知らせるものだ。いずれも現状の技術で不可能ではないが、スマートフォンなどと比べ高い処理能力を持つネットワーク上のサーバーで画像処理させることで、利便性の向上を期待する。

 システム開発には、九工大の学生も参加する。河野英昭准教授は「実現には回路設計、通信、ソフトウエアの3要素が必要だ。開発から検証まですべてを学内で完結させられる環境は学生にとって面白いと思う」と語る。

 九工大の三谷康範副学長は「学生の積極的な参加による教育効果と研究開発を期待する。また、産学連携で、いろいろと広げていこうと思っている」と展望する。

 QTnetにとっても、ローカル5G環境の構築実績を積めることは大きい。岩崎和人社長は「ローカル5Gは設計上の自由度が高い。既存の社内ネットワークの置き換えなどで、(収益源となる)可能性はある」と期待する。

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