来年6月の社長交代を11月に発表したパナソニック。通例では交代前の2月ごろに固める社長人事を早めた背景には、同時に打ち出した2022年4月の持ち株会社制移行がある。多角化した事業を再編し4事業を収益の柱とする一方、不採算事業からは撤退を示唆。退任する津賀一宏社長がかつて高収益を目指すとした電池以外の車載と住宅も主力事業から外れた。地域軸で唯一残した中国の成長性に期待するが、現地メーカーとの競争は激化する。新体制は課題山積での船出になりそうだ。
「各事業会社に大胆な権限委譲を行い、自主責任経営を徹底することで『専鋭化』を加速する」
津賀社長は11月17日の経営方針説明会で「専鋭化」の言葉を何度も繰り返した。世界で従業員約26万人、関連会社約530社を持つ同社の多角化した事業領域を絞ることで意思決定を速め、競争力を高める狙いだ。
今回の再編では、5つの事業軸と2つの地域軸で分けていた社内カンパニーを8つに分社化し、「パナソニックホールディングス」に商号を変える持ち株会社の完全子会社とする。
再編後の事業会社の中で「高収益な4つの柱」として主力に位置付けたのは現社名を残す「パナソニック」と、「現場プロセス事業」「デバイス事業」「エナジー事業」だ。
パナソニックには白物家電や照明、電設資材などの祖業のほか新型コロナウイルスの感染拡大で関心が高まる空調事業、冷蔵ショーケースで高いシェアを持つ食品流通事業を組み込む。
エナジー事業は米テスラ向けの電気自動車(EV)用車載電池や乾電池、産業用電池など、分散していた電池関連事業を集約する。
経営方針説明会に同席したCSO(最高戦略責任者)の片山栄一常務執行役員は「一つの事業会社で多い時には10事業を見ていたが、今回の再編で3事業程度に減らし、持ち株会社は戦略や新規事業に機能を絞る」と効率化を強調した。
「具体策示されず」
一方で社内からは「具体的な成長戦略が示されておらず、再編の狙いが実感できない」との声が上がる。
再編で電池以外の車載装置の「オートモーティブ事業」と住宅関連の「ハウジング事業」が主力から外された。津賀社長は2012年の就任直後に発表した中期経営計画で、車載と住宅関連の売上高を18年までにそれぞれ2兆円に成長させる目標を掲げたが、車載は開発費の増大などで収益が悪化し、昨年5月発表の中期計画では「高成長事業」から「再挑戦事業」に格下げ。住宅はメーカー部門が今年1月にトヨタ自動車と設立した合弁会社の傘下となり、設備や資材だけが残る。同じく主力から外されたAV機器・カメラの「スマートライフネットワーク事業」では、テレビ事業が昨年度に100億円の赤字を計上した。来年6月に社長就任予定の楠見雄規常務執行役員は、テレビや車載など低収益事業の再建に取り組んできた経験から「強みを持てない事業は、冷徹かつ迅速な判断で事業構成から外す」としている。
就任9年目の津賀社長はプラズマテレビ事業からの撤退など構造改革で一定の成果を上げてきたが、稼ぎ頭を生み出すことに苦戦し業績は低迷している。
成長の柱にすべく数千億円を投じた北米工場で量産を始めたテスラ向けのEV電池事業は、テスラが中国や韓国メーカーなどを調達先に追加したほか、自社生産も目指すと表明するなど先行きが不透明だ。新体制でも構造改革が先行する状況になれば、業績回復は遠くなる。
「中国頼み」の賭け
そんななか、再編で異彩を放つのが「中国・北東アジア事業」だ。現体制で米国事業を統括するUS社は発展的に解消して各事業会社に移管する一方、中国を中心に台湾や韓国も管轄するCNA社は唯一、地域軸の社内分社として再編後のパナソニックに組み込む。
1987年に日本企業として戦後初めて中国に進出した同社は現地生産だけでなく、研究開発も手掛けてきた。近年はIoT(モノのインターネット)技術を生かして家電と住宅設備を組み合わせるスマートホーム事業に注力。来年度からは浙江省で家電の工場としては16年ぶりに中国に建設する調理家電の生産拠点が操業を始めるなど、“中国シフト”ともいえる戦略だ。
ただ、地域別売上高で中国は2015年度から1兆円を下回り、米中貿易摩擦などの影響もあって、19年度には米国事業の半分程度の7548億円まで減少。白物家電の販売を強化しブランド力を高めて企業向け製品にも拡大する青写真を描くが、中国ではハイアールなどの現地メーカーが高いシェアを占める。
電機業界に詳しい流通科学大の長田貴仁特任教授は「中国の家電メーカーは技術力を高めており、以前のように価格だけを武器にしていない。競争は厳しく、『中国頼み』は一種の賭けになる。パナソニックには、業界の構造を激変させるほどの『破壊的イノベーション(技術革新)』が必要だ」と指摘している。(山本考志)