山本隆三の快刀乱麻

発電は“ぬれ手でアワ”にあらず 容量市場が安定供給支える (2/2ページ)

 低稼働率の設備維持

 自由化市場で安定供給を維持する制度として考えられたのが容量市場だ。数年後の供給が可能な設備を持つ発電事業者が、設備の維持と発電の要請に応えることを約束すれば保有する設備に応じて資金を受け取れる。受け取れる資金額は必要な設備量の入札により決定されるシステムだ。負担は電気料金を通し行われる。

 設備減少による停電の可能性があると判断した英国は、3年から4年先の設備、供給力を対象に6年前から容量市場の入札を開始している。日本でも今年9月、24年度の設備、供給力を対象とした容量市場の入札が行われた。その結果を報道した一部マスメディアは、大手電力会社を悪者にしているようだ。

 たとえば、「1キロワット時2円。平均的な家庭だと1カ月500円の料金上昇にあたる」と伝え、小泉環境大臣の料金が上がる可能性があるとのコメントを伝える記事では「多くの発電所を持つ大手電力に収入増をもたらし、発電設備をほとんど持たない新電力は負担が重くなる」と伝えている。さらに「消費者負担で大手電力はぬれ手にアワの利益も」との報道もみられた。

 読者を誤解させる内容だ。発電所を持つ事業者は、停電させないため発電所維持の費用を収入として得る必要がある。発電設備を持たない新電力が電気を仕入れるためには大手電力の発電設備が必要だ。お金は出したくないが設備を維持して発電してほしいというのは、虫が良い話ではないか。

 新電力は電力の卸市場からも仕入れているはずだが、卸市場価格は下落が続いている。卸市場に電気を売っている発電設備を持つ電力会社の収入は影響を受けているはずだ。容量市場が機能するかどうかはまだ不透明なところがある。英国の容量市場では落札価格が低く、まだ新規発電所建設には結びつかない試行錯誤が続いているように見える。

 日本でもさらに市場のあり方が検討されるが、将来の電気料金については、発電コスト、卸市場価格などの要因があり、月額500円上がるかどうかは分からない。「ぬれ手でアワ」というのは、大手電力会社が嫌いだからではないのか。

【プロフィル】山本隆三 やまもと・りゅうぞう 常葉大学経営学部教授。京大卒業後、住友商事に入社。地球環境部長などを経て、2008年プール学院大学国際文化学部教授、10年から現職。財務省財務総合政策研究所「環境問題と経済・財政の対応に関する研究会」、経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。現在、国際環境経済研究所所長、NEDO技術委員などを務める。著書に『経済学は温暖化を解決できるか』(平凡社)、『夢で語るな日本のエネルギー』(マネジメント社)など。

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