福岡市南区の住居以外の建築を厳しく規制する地域で、食材宅配業者が平成15年以降、事務所や配送センターとして営業し、トラックの頻繁な往来や騒音問題などでトラブルになっている。市は28年と令和2年に事務所使用などを禁じる措置命令を発したが、営業が続いている。命令の猶予期限となる来年1月末を過ぎても改善のない場合、市は建築基準法に基づく罰則の適用も含めて対応を検討するとみられる。(中村雅和)
違反建築物
問題になっている施設は同区南部の桧原(ひばる)地区にあり、周辺は住居以外の建物建築を厳しく規制する「第1種低層住居専用地域」に指定される。野球場などを併設した公園に隣接し、マンションや住宅が立ち並ぶ住宅街を歩くと、配送トラックが所せましと駐車するエリアが突然現れる。早朝から配送員とみられる男性が黙々と荷物の積み下ろし作業を続けていた。
土地登記簿によると、一角は戦後の農地解放に伴い施行された自作農創設特別措置法に基づき昭和25年に市内在住の男性に売り渡された。その後、昭和45年から平成9年にかけて、複数の売買を経て現在の所有者の手にわたった。
昭和48年8月、この一角を含む桧原一帯は現規制の前身にあたる「第1種住居専用地域」に指定。ただ、一帯ではそれ以前の規制がない時代に建設業者や鉄工所などが進出していた。
用途地域の指定や変更に伴い、既存の建物が新たに規制対象となる場合、完成当時の法令に合致するなどの条件を満たせば、継続使用を認める「既存不適格」という制度がある。
問題の一角では、指定3年前の45年に木造平屋建ての建物が「作業所」として建設された。しかし、市によると建築前に建築確認申請が行われておらず、50年には大規模な増築をしており、市監察指導課は「既存不適格に該当せず、違反建築物にあたる」と判断した。
さらに平成4年に軽量鉄骨造の2階建て建物が「倉庫・事務所・居宅」として建てられたが、これも建築確認申請が行われていなかったため「(用途地域指定後であることから)そもそも違反建築物だ」(同課)という。
この建物を所有する市内の元建設会社経営者は産経新聞の取材に対し「昔のことなので、経緯など詳しいことは覚えていない」と話した。
「私どもも被害者」
市から命令を受けたのは所有者ではなく、占有者の食材宅配業者で、経営者は、賃貸借契約を結ぶ際に用途制限などの説明は受けていなかったと主張。「事務所などで使用できないと分かっていたら契約しない。その意味で私どもも被害者。同じような建物は他にもある。なぜ私どもだけが命令を受けなければならないのか」と語った。
確かに市内では、建築基準法の用途規制に違反した建物も少なくなく、市がすべてに対応することは困難だ。実際、同課では10人足らずの陣容で、市内全域の建築物を監督しており、より悪質と判断したケースから処理を進めていかざるを得ないという。同課担当者は「桧原地区のケースでは再三にわたり違反状態の解消を求めてきたが、応じていない」と説明する。
これに対し、食材宅配業者の経営者は「移転先の候補を探すなど努力はしている」と強調している。
市が厳しく対応するのは、この食材宅配業者がトラックの頻繁な往来や積み下ろし時の騒音などで住民とのトラブルを抱えていることもある。県警幹部は「通報を受け警察官が出動した事案はあった」と認める。市の命令を告示する立て看板の設置をめぐっても混乱があったという。
膠着状態が続く中、命令の猶予期間終了後の市の次の一手が注目される。