自らは特許を利用して製品をつくるわけではない「非実施主体」(NPE)と呼ばれる事業体が今年、コロナ禍の米国で活発な活動を続けている。NPEは、特許を保有し、事業会社を相手にライセンス料や賠償金、和解金狙いで訴訟を仕掛ける存在だ。
単体で年10件以上の訴訟を起こしている原告を“High-Volume Plaintiff(HVP)”と呼ぶが、ほとんどはNPEである。例えば、対マイクロソフト訴訟におけるユニロック判決で有名なユニロックUSAは2015年以降320件も訴訟を起こしている。
10月27日までに起きた3341件の特許侵害訴訟のうちHVP関連が1285件で、はや19年の1301件に迫っている。全体に占める割合でみると、ここ5年で2番目に高い水準になっている。コロナ禍で米大手法律事務所では特許訴訟弁護士の報酬や雇用の見直しが進み、米裁判所はリモート裁判を余儀なくされているが、NPEは黙々と訴えを起こしている。
リーガルデータサービスで知られる米LexisNexisの成情任システムエキスパートは「この4、5年、HVP関連は減少が続いたが、今年は反転の可能性が極めて高くなった」と話している。
ロサンゼルスで活動する知財訴訟に詳しい大平恵美米国弁護士(カリフォルニア州)は「今年はリモートワークやリモートカンファレンスが進展し、Wi-Fi、ブルートゥースなど通信技術に加え、コミュニケーション関連技術かトレンドとなりつつある」と指摘。古い特許まで持ち出して、訴訟を起こす例もあるという。
注目は、これらコロナ関連のデジタル技術の特許価値が急騰中で、NPEが買いに走っていることである。1000件ものポートフォリオを放出した欧米企業もあるといわれ、それらは21年にNPEが起こす特許訴訟の材料になるとみられる。日本企業でもウィズコロナ時代の新たな機器やサービスの開発が活発だが、使用技術の特許を精査しておかないと、商品がヒットした場合、NEPのターゲットとなる可能性がある。
さらに注目すべきは米大統領選の行方だ。トランプ政権は、対中交渉に見られるように、プロパテント(特許重視)政策派、つまり産業力やイノベーションの源泉となる知財を尊重する政策を重視している。NPEはプロパテント政策の落とし子のようなものであるからだ。(知財情報&戦略システム 中岡浩)
◇
■米国特許訴訟件数の推移
(特許訴訟件数/うちHVP)
2016年 4528/1974(43.6)
17 4000/1465(36.6)
18 3598/1375(38.2)
19 3598/1301(36.1)
20 3341/1285(38.5)
出所:米LexisNexis。カッコ内は%。HVPはHigh-Volume Plaintiffの略。20年は10月27日時点