リモートでのビジネスが当たり前になって、よく受けるようになった相談に、「指示・命令が行き届かない」というものがある。指示・命令をしても、「顧客に直接会えないからできない」「別の部での作業が滞っている」というような、予期せぬリアクションが返ってくるという。言外に、「リモートなので、上司のあなたは私の状況をご存じないでしょうが」というニュアンスが含まれていると感じている相談者もいる。
リモートで、部下の状況が分かりにくくなったのも事実で、顧客や別の部の状況も従来とは異なるので、それに対して、言い返せない。加えて、対面で雑談する時間もないし、電話やリモート会議では時間も限られているので、ゆっくりと状況を聞くこともできず、リカバリーの時間もとれない。しかし、手をこまねいているだけでは、ビジネスの進(しん)捗(ちょく)はかなわないので、困っているというのだ。
こうした状況に対して、私が勧めているのが、相手を巻き込む5つの質問を、指示・命令の前に必ず行うことだ。5つの質問とは、(1)やってみてどうでしたか(2)うまくいったことは何ですか(3)うまくいかなかったことは何ですか(4)改善したいことは何ですか(5)サポートを得たいことは何ですか-という質問だ。
この順に質問して、相手に答えてもらう方法だ。慣れてくれば5分もかからずに対話できる。「やってみてどうでしたか」という質問で、相手から状況を聞くことができる。状況把握だけでなく、虚心坦懐(たんかい)に聞こうとしているという姿勢を伝えることができる。
「うまくいったことは何ですか」という質問で、相手のモチベーションを高めることができる。良い点を評価しようとしているというポジティブなメッセージを送ることができる。
一方、「うまくいかなかったことは何ですか」という質問は、ダメ出し面談に慣れてしまっている相手に対しては、「評価しようとしているのではなく、支援しようとして聞いている」「うまくいかなかったことに対してダメ出しするつもりはない」というニュアンスを込める必要がある。「壁にぶつかったことはありますか」「やりづらかったことは何ですか」と言い換えても良い。
相手から、うまくいかなかったことの話があると、つい、そこから、指示・命令に移行したくなるが、ぐっと堪えて、次も質問だ。
「改善したいことは何ですか」という質問で、「きっと、既に改善策に着手しているだろう」「工夫したい点を考え始めているだろう」という期待を伝えることができるからだ。改善点を相手が話すと、ここからも、「では、いつまでに実施してくれ」「必ず取り組んで、成果を出してくれ」と指示・命令したくなる人が多いが、ここも堪える。
「サポートを得たいことは何ですか」という質問をして、相手が答えたことに対して、全てでなくてもよい、一部でもよいのでサポートを約束する。
5つの質問のやり取りの後に、指示・命令をすると、驚くほど、相手の腹落ち度合いが高まり、指示・命令が行き届いたことが分かるという人が多い。5つの質問によるやり取りを行って、最後はサポートを約束することで、相手を巻き込むことができているからだ。相手を巻き込む5つの質問は、リモートで相手の状況が分かりづらい今こそ活用したいスキルなのだ。(山口博)
山口博(やまぐち・ひろし) モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国大非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。