金融

20代で課長昇進も…脱年功序列する損保ジャパンの狙い

 【経済インサイド】

 損害保険大手の損害保険ジャパンは10月から、勤続年数に応じて昇給や昇進が決まる年功序列から脱却する新たな人事制度を導入した。これにより、従来40歳前後で昇格する課長職に、制度上は20代でも就けるようになる。年次にかかわらず実力ある若手の登用を進め、社員のやる気を引き出すのが狙いという。だが、その実は新型コロナウイルスの影響による経営難を受けた人件費削減が目的との見方もあるようだ。

役職削減に戸惑いも

 今回の人事制度の見直しは、損保ジャパンの社員2万5000人のうち、課長職以下の1万8000人が対象となる。

 まず、管理職の課長昇格まで経る必要があった5区分の「役割等級」を3区分に削減した。「特命課長」「業務課長」「副長」のポストを廃止し、「課長代理」「主任」「役職なし」にまとめた。同社は「社会的に認知度が高く、なじみのある『課長代理』『主任』の名称を使用することにした」としている。

 そして、区分ごとに2~4年とされていた昇進のために必要な在留年数の目安も撤廃。昇進の度に行っていた人事審査なども減らしたことで、能力が高い社員は上司の評価と判断で“飛び級”も可能になった。

 ただ、大胆な人事改革には社内で戸惑いの声も上がった。役割等級の削減で、これまで特命課長や業務課長だった社員は「課長代理」へと役職名が変わるため、「課長から課長代理となることで降格されたような印象を与えてしまう」と懸念する社員もいたという。

 これに対し同社は、「等級別の役職の『呼称』が変わるだけで、処遇が変化するものではない」と社員に丁寧に説明。名刺などに表記する対外呼称については、ガイドラインに基づき所属長の判断で自由な設定ができる規定を設けるなどの配慮も行った。

 また給与の一部では、グローバル職やエリア職といった処遇区分を共通化させ、転勤などの生活設計のリスクに配慮した賃金の上乗せも実施する。

コロナ禍で脱年功序列加速?

 親会社のSOMPOホールディングスは8月に桜田謙悟社長を本部長とする「働き方改革推進本部」を設置し、人事制度の見直しを積極的に進めている。同様の人事制度の導入を、SOMPOひまわり生命保険など他のグループ各社にも広げていく方針だ。

 こうした年功序列を特徴とした日本型雇用から脱却する動きは、コロナ禍で働き方そのものが大きく変わる中、大企業を中心に加速している。

 その理由について、日本総合研究所の山田久副理事長は「人事制度と景気は相関が強く、不景気になると人件費を抑制するための人事や給与制度の見直しがこれまでも行われてきた」と指摘。コロナの影響で多くの企業の業績が急落したことで、「人件費見直しの必要性はより高まっており、今回も過去と同様の動きがみられる」と分析する。

 年功序列や終身雇用は、従業員にとっては将来的な生活の安定を期待できる半面、社員の高年齢化に伴い人件費が増大するため企業にとっては大きなデメリットにもなる。

 そのため、脱年功序列の動きは、1990年代半ばのバブル崩壊や、2000年代に入ってからのデフレ不況、リーマン・ショックといった景気の低迷期に広がった。しかし、評価方法の難しさや労働組合の反対などにより失敗した事例も多く、従来型の人事体系に戻してきた経緯がある。

 日本で定着が難しかった脱年功序列だが、「以前とは異なり、働く環境が大きく変わっており、人事制度を抜本的に変えざるを得ない状況だ」と山田氏は強調する。コロナ禍で進んだ業務のデジタル化、今後の男性労働者の激減、女性雇用の拡大、シニア世代や外国人労働者を含めた人材の多様化といった変化に備えるための人事改革はさらに加速するとみている。

 ちなみに、損保ジャパンは今回の新たな人事制度について、「新型コロナを機に見直したわけでなく、2~3年前から検討を始め、労使協議を重ねてきた」と説明する。新たな人事制度導入に人件費削減の目的はあるかと尋ねると、「導入で社員の仕事の効率化を促して生産性を高めれば、結果的にコスト削減につながる」と、模範的な回答が返ってきた。(西村利也)

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