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「会社売ります」 中小企業のM&A加速、買い手は生き残りへ多角化狙う

 新型コロナウイルスの感染拡大のさなか、M&A(企業の合併・買収)による中小企業の事業承継に向けた動きが加速している。もともと後継者不足に悩んでいたところにコロナ禍で、いよいよ長期的な事業存続を懸念し、売却を模索しているのだ。買い手側も、多角経営で生き残るために新たなビジネスを求めるようになっており、こうした動きに拍車をかけている。

 後継者不足に追い打ち

 「会社を買うというと『大きなこと』と思うが、普通の人が買っているものなんです」。10月6日、岡山市の商業施設からオンラインで行われた事業承継セミナー。登壇したM&A仲介「バトンズ」(東京)の大山敬義社長は、結婚式場を元看護師の女性が買収したという事例を紹介し、こう力説した。

 大山氏はM&A仲介大手の日本M&Aセンター(東京)の設立メンバー。独立して平成30年4月にバトンズを設立し、オンラインで売り手と買い手を結びつけるマッチングサイトを運営している。登録は無料。9月末までに約2900件の登録があり、これまでの2年半で440社の案件が成約したが、売り手の4分の3は年間売上高が1億円未満の中小企業。いわば小規模なM&Aが大半を占めている。

 同社は今年8月、岡山商工会議所と事業承継に関する協定を結んだ。商議所は事業承継を検討している企業に同社のサイト登録をうながし、バトンズはセミナーを商議所と共催していく。今回のセミナーもその一環だった。この連携で想定しているのは主に年商2億円以下の企業。親族や従業員以外が事業を引き継ぐ「第三者承継」を進める。あわせて商議所にもマッチングの専門家を育成する考えだ。

 同商議所も支援機関を通じ中小企業のM&Aを手がけてきたが、吉田陽一・中小企業支援部長は「まだ数は少ない。小規模の事業者に、自分たちの会社が『売れる』『引き継いでもらえる』という認識が少ないためだ。可能性があることを知ってもらいたい」と連携の理由を説明する。

 買い手は「変化に対応」

 もともと中小企業の後継者難は課題だ。

 調査会社の東京商工リサーチの調べでは、今年1~6月に後継者難を理由とした中小企業の倒産は194件あり、前年同期の約8割増。集計を始めた平成25年以降で上半期として過去最多を記録した。

 こうした苦境に新型コロナの感染拡大が追い打ちをかけたのだ。一方でコロナ禍により、買い手側の意識も高まっている。

 バトンズのサイトに買い手として登録した人や企業は9月末で約7万2千件。今年2~6月、買い手側に同社が実施したアンケートでは「市場の変化への対応のため」とした回答が7割を占めた。例えば飲食店のみを経営をしている企業はコロナ禍では店舗を増やすほどリスクが高まるため、別の業種への進出を検討しているというわけだ。

 このほか日本政策投資銀行は今月、事業承継の支援会社の設立を発表。経営学修士(MBA)を取得している若い人を中小企業の経営者として仲介し、企業買収の資金を提供する仕組みだ。

 大山氏は「コロナ禍で事業承継への意識は進んだ。地方都市でも他県から見ると魅力がある商材があり、別のアイデアで販路を拡大する例はある。若い人に地方に来てもらいたい」と話している。

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