日本郵政グループは5日、かんぽ生命保険の不正販売問題を受けて昨年7月から自粛していた保険の営業活動を再開した。グループの建て直しに向けた一歩となるはずが、ゆうちょ銀行で先月、不正に貯金が引き出される問題が発覚、公表の遅れなど対応が後手に回ったことも判明した。信頼回復が遠ざかる中での、厳しい再出発になった。
5日朝、全国2万4千の郵便局の店頭には、営業再開を伝えるポスターやちらしが一斉に並んだ。「心配と不安を抱かせてしまった謝罪をお客さま1人1人にさせていただきたい」。東京中央郵便局の加藤若菜窓口営業部副部長は節目の日を迎えてこう語った。
営業再開といっても解禁されたのは、かんぽ問題の謝罪とともに生まれ変わった会社の姿を伝える「おわび行脚」だ。今年度中はこの活動に終始する。顧客にグループの新たな姿勢が伝わり、信頼回復が進むまで積極的な保険商品の販売は控える方針だ。
だが、こうした方向性とは裏腹に、ここにきてグループの信頼を失墜させる事態がゆうちょ銀で続発している。電子決済サービスを通じた不正引き出し問題では被害の公表に後ろ向きな姿勢が目立ったほか、デビット・プリペイドカードの送金機能を悪用した不正引き出しでは被害判明後もサービスを続けて被害拡大を招いた。これらの問題からはいずれも顧客軽視の姿勢が浮かぶ。
「勘弁してよ」。日本郵便幹部は、保険営業再開に向けた慎重なお膳立てがふいにされたことに顔をしかめる。
日本郵政の増田寛也社長は再開に向けた満たすべき条件を設定し、外部の有識者委員会に再開のお墨付きを求めるなど、慎重に検討を重ねてきた。前経営陣が拙速に再開を判断して批判にさらされてきた失敗があるからだ。慎重な立ち回りを受け、高市早苗前総務相からは「道筋を早期につけていただきたい」と再開を促す発言も得ていた。
それだけにこのタイミングでのゆうちょの問題は痛手になる。さらに、かんぽ生命でも営業自粛中の8月に法人顧客との契約で新たな不正行為があったことが先月末に発覚している。
問題に歯止めがかからないのは、不正の再発防止に向けたグループのガバナンス(企業統治)改革が途上であることの裏返しでもある。増田氏は「巨大組織の体質改善は時間がかかる問題」と語る。それだけに、顧客本位の組織風土改革が十分に徹底されていないままで営業再開は問題再発のリスクもはらんでいる。(万福博之)