京都先端科学大・旭川大客員教授 増山壽一
バブル崩壊後の失われた数十年をなんとか成長軌道に乗せるために、日本が率先し導入した「超低金利政策」について、当初米国や欧州は、「円安誘導であり国家による経済への過剰な介入だ」と批判を強めていた。しかし、現状はどうであろうか。経済至上主義のトランプ米大統領によってFRB(連邦準備制度理事会)の独立性が徐々に脅かされ、米国も実質マイナスのゼロ金利政策となっている。
一方、教条主義的な欧州でさえも、さすがに今回の新型コロナウイルス騒動で、各国が個別収入保障政策などを次々に取ったがゆえに一挙に財政規律が緩み、マイナス金利政策をとった。そんな中、これまで金利差を収益の基本としてきた銀行は、その経営の基盤が大きく揺らいでいる。貸せば貸すほど損が膨らむのだ。
この現状を打破するためは、「イスラム金融」を今一度想起すべきである。石油や天然ガスから莫大(ばくだい)なフロー収入をオイルマネーとして世界に供給する中東諸国の金融業は、イスラムのコーランの教えに従って、「利子」という概念そのものが許容されていないために貸し付けられないのだ。
では一体イスラム金融ではどうしているかというと、銀行自らが出資や投資家となる。例えば、銀行が設備を所有してその設備をリースとして設定し、一定期間にわたって顧客からリース料を受け取る。また、中東のファンドがいとも気前よく、欧州のブランド百貨店やプロスポーツチームを買収するというのもその一環のビジネスとなっている。
マイナス金利下の日本の銀行をはじめ世界の銀行は、この「イスラム金融」を参考にすべきである。つまり、金利差でもうける発想から脱却して、自分でリスクをとってビジネスの世界にプレーヤーとして参加し、もうけを生み出すことが今後の生き残りの鍵となる。
保険や信託の販売手数料や国債の大量購入だけをやみくもに続けていても、銀行はその社会的な使命を果たせない。現在の銀行を縛る金融関係の法体系は、第一次世界大戦後の米国や戦後の欧州にて、銀行が産業界を過剰に支配しないようにと形作られてきた。しかし、これからは銀行が産業界において一つのプレーヤーとして参加することが経済の再生に不可欠であり、そのために抜本的な法体系の見直しが必要である。
【プロフィル】増山壽一
ますやま・としかず 東大法卒。1985年通産省(現・経産省)入省。産業政策、エネルギー政策、通商政策、地域政策などのポストを経て、2012年北海道経産局長。14年中小企業基盤整備機構筆頭理事。旭川大学客員教授。京都先端科学大客員教授。日本経済を強くしなやかにする会代表。前環境省特別参与。著書「AI(愛)ある自頭を持つ!」(産経新聞出版)。57歳。