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「農業×福祉『農福連携』」(下)胡蝶蘭職人として開花する知的障害者の能力 (1/2ページ)

 【近ごろ都に流行るもの】

 福祉の職場で軽視されがちな「稼ぐ」という目標を掲げ、成果を上げている「農福連携」の取り組みを伝えたい。房総半島の自然のなかにある千葉県富津市、NPO法人AlonAlon(アロンアロン)のオーキッドガーデンだ。慶弔や式典に欠かせない装花、企業の必需品である胡蝶蘭に着目して3年前に開所。知的障害者が栽培した花の販売先は2000社を超えた。それとともに、胡蝶蘭職人として技術を体得した通所者が、取引先の協賛企業に続々と就職を果たしている。(重松明子)

 200坪の胡蝶蘭ハウスに足を踏み入れると、純白の大輪が絢爛(けんらん)と輝き並んでいた。「ハウス1棟で年間1万本を出荷しています」。AlonAlonの那部(なべ)智史理事長(51)が胸を張った。

 空調や風光はコンピューターによる自動制御。気温は常時25~30度、低湿度に保たれ快適だ。1棟の初期投資は5000万円。隣接地には2棟目が新築され、今年度1億7600万円の売り上げを見込む。

 ここは、就職困難とされる中重度の知的障害者を受け入れる就労継続支援B型事業所に分類される。「従来のB型事業所の工賃は月額平均1万6000円とあまりにも低い。知的障害者が何もできないと決め付けられ、内職仕事に閉じ込められている現状を変えたかった」と那部さん。

 その原動力は、最重度の知的障害がある一人息子の慶太さん(24)の存在だ。わが子の障害が判明した際、同僚らから「かわいそう」といわれ、社会通念に対する反骨心をたぎらせた那部さん。間もなく、ITベンチャーを起業し年商400億円の企業に成長させて売却。その資金をもとに不動産を購入し、家賃収入で息子の将来を担保するとともに、知的障害者に特化したB型事業所を立ち上げた。収益は設備投資と障害者への工賃にあて、自らは無報酬を貫いている。

 胡蝶蘭栽培にあたる13人の障害者のうち6人が職人としてここで働き続けながら、企業への就職を果たしている。

 「自分の会社が使う花を育てることに、責任と誇りを感じる。両親も喜んでいます」と快活に話すのはイオン銀行に就職した男性、山形朱理さん(21)。筆者が自己紹介すると、「産経新聞、うちもとってます」。特別支援学校を卒業後にスーパーに勤めたが、いじめに遭い悩む中、親が購読する産経新聞千葉版に載っていた胡蝶蘭ハウス開設の記事を読み、自ら電話をかけたことが転機となった。

 後輩に指導し、テキパキ働く姿は知的障害者には見えない。そんな印象を那部さんに話すと、「障害者に見えなくなった。自己肯定感を積み重ねて、どんどん成長している。立場が人をつくるのは健常者と同じ」と目を細めた。

 「つぼみを落とさないように…」。花の裏にスポンジを当て正面を向かせる作業をしていた土屋柚希さん(21)は、「以前の施設は、毎日同じ作業でいやでした」。転所し、胡蝶蘭栽培の腕を磨いて協賛企業への就職もかなえた。「社長さんがハウスの仕事を見に来てくれて、驚いた。感謝しています」

 同所では胡蝶蘭栽培を60工程に分け、障害と能力に応じた仕事を割り振り、向上心と自立心を促している。「より難度の高い仕事を任されて企業に採用されたいと、みんな前向きに頑張っている。作業は2人一組で行い、お互い確認し合って進めてくれている」と栽培統括責任者の大澤剛志さん(29)。

 人手不足の農家も歓迎。AlonAlonに農地を売り、農業指導にあたっている50代女性は「大勢の人が入ってくれてよかった。できることはどんどん任せたい。時には叱ることもあるけれど、生き物を育てる喜びと達成感を共有できて、楽しいですよ。障害者だからといって、過剰な配慮はしていません」

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