高論卓説

組織は戦略に従い、デジタルも事業戦略に従う

 新型コロナウイルス感染拡大はピークを打ったとの見方が出されたが、企業経営にとっては厳しい環境が続く。有事において頼りになるのは、これまで蓄積してきた資産だ。現金をはじめとする流動性の高い資産は言うまでもない。だが、それだけではない。顧客との信頼関係、卓越した技術、ロイヤルティーの高い社員など、普段から大事に培ってきたものが、いざというときに物を言う。常日頃から資産を蓄積して経営基盤を強くする取り組みを継続して行うことが必要だ。(小塚裕史)

 今回のような外部環境が不連続に変化したタイミングだと、これまでのやり方を大きく見直すことも必要となる。これまでやっていなかったことに挑戦する機会だともいえる。既存事業強化に向けて、新しいテクノロジーを活用することだ。必ずしも革新的な技術を導入する必要はない。新しいサービスを始めるということでもない。これまでの事業に磨きをかけるように工夫を凝らすのだ。

 デジタル化が進む現代においても、事業を強化するためには自社の顧客がどのような人で、普段どのような行動をとっているのかを把握する必要がある。その顧客を狙って広告・宣伝を打つ方が効率的だし、効果的だ。ネットの世界だと、興味を持ってもらった瞬間に電子取引を経由して購買につながる。

 例えば、美容・健康がテーマになる商品であれば、「美容にこだわる20代の女性はどのようにしてスキンケア商品を調べているのか」「中性脂肪を気にする40代の男性がよく使う検索キーワードは何か」など、ターゲットとなる顧客層が、デジタル空間で何を気にして、どのような行動をとることが多いのかを理解する。

 これに対して「進め方が分からない」という声も聞く。従来だと店舗を視察し、顧客や販売員に話を聞くことで、顧客の動向をつかむことができた。それに比べると、デジタルの空間で、誰がどのような行動をしているのかを実感することは難しい。

 こういった調査・分析を支援するために、ネット内のユーザーの行動を見える化するサービスが増えてきた。対象顧客が何に興味を持っているのか、自社の製品・サービスがどのようなキーワードを使って検索されているか、SNS(会員制交流サイト)でどのように評価されているか、などを分析してくれる。顧客が利用しているメディアを通じてメッセージを発信し、反応や購買行動に基づいて、効果まで測定してくれる。

 重要なのは、こういった活動を継続することだ。顧客の興味は刻一刻と変化する。動向を見極め、変化の兆候を見逃さないために「PLAN-DO-SEE」のループを定期的に回す。自社ホームページやSNSを刷新する、モデルチェンジを行い明確なメッセージを出す、口コミに気を配るなど、やらなければならないことは意外と多い。

 製品のセールスポイントとデジタル環境でのメッセージを整合させ、顧客の興味に合う形で情報発信する。途中でやめてしまうと「情報が更新されていない」などと顧客からの失望を買い、逆効果になってしまう可能性もある。関係部署間のコミュニケーションを密にし、適切に企画と実行を行うことのできる組織つくりも重要な経営戦略となる。

 「組織は戦略に従う」と言われる。変化する環境に適応する戦略を策定し、その戦略を実行する最適な組織にしなければならない、という意味だ。デジタルについても同じことが言える。「デジタル戦略は事業戦略に従う」のだ。

【プロフィル】小塚裕史

 こづか・ひろし ビジネス・コンサルタント。京大大学院工学科修了。野村総合研究所、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベイカレント・コンサルティングなどを経て、2019年1月にデジタル・コネクトを設立し、代表取締役に就任。主な著書に『デジタル・トランスフォーメーションの実際』(日経BP社)。兵庫県出身。

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