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独自の圧縮技術で4K映像を広域無線配信 Free-D、防災・減災への活用目指す

SankeiBiz編集部

 災害発生時に現場の様子を黙々と映し出すライブカメラの映像。被災地のリアルな状況を視覚的に把握したり、その凄まじさや危険性をより具体的に伝えることのできる貴重な情報源であるが、通信環境や機材性能に大きく依拠するため映像が荒くなりがちだ。ならばより高精細な4K映像を活用して詳細な被害情報を配信し、防災や減災に役立てようと、独自の映像圧縮技術と次世代無線通信システムの本格稼働に取り組むスタートアップ企業がある。(SankeiBiz編集部/大竹信生)

 日本各地で豪雨被害

 毎年、9月1日の「防災の日」を含む1週間は「防災週間」となる。日本はその地形や地質、気象などの自然的条件から台風や豪雨、地震や津波、火山噴火といった災害が発生しやすい国だ。

 今年7月、熊本県を中心に九州や中部地方などの広範囲で発生した集中豪雨は記憶に新しい。人的被害や住家被害、土砂災害や河川の氾濫など、各地で激甚の被害をもたらした。その影響で停電や断水によるライフラインの供給がストップし、携帯電話等事業者の複数基地局で停波するといった通信被害も報告された。一昨年には「平成30年7月豪雨」が西日本を中心に大きな爪痕を残した。日本に住む以上、災害は他人事ではないのだ。

 近年、水害は増えているのだろうか-。気象庁の《気候変動監視レポート2019》によると、1976年~2019年の国内における「日降水量200mm以上」および「同400mm以上」の大雨の年間日数はともに増加傾向にあるとの報告がある(※1)。その要因の一つともなる台風の年間上陸数は、2018年と2019年に歴代5番目の多さとなる5回を数え、2016年には6つの台風が日本に来襲した(※2 気象庁の統計期間:1951年~2019年)。これら風水害の発生件数は年々変動が大きいそうだが、少なくとも「増加傾向にあるようだ」といった一定の変化傾向は示している、と見立てることはできそうだ。

 4K映像を広域配信

 そのような背景から今後も様々な形の災害が想定される中、2018年11月に設立したスタートアップ企業のFree-D(東京都中央区)と京都大学の研究グループが共同で、4Kの高画質映像を広範囲に無線配信する実証実験に成功したと8月下旬に発表した。これは、京都大学が数年前に開発したIoT用広域系無線通信システム「Wi-RAN」に、Free-D独自の映像圧縮技術を搭載することで、4K映像の画質をほぼ劣化させることなく遠方に配信できるシステムだという。

 今回の実験成功の意義と圧縮技術の活用方法についてFree-D代表取締役社長の横内直人氏は、「これまで4K映像を広範囲に無線配信することはできませんでしたが、この無線システムと4K対応のネットワークカメラがあれば、ネット回線がないような僻地でも河川の氾濫状況などを高画質映像に収めて配信することが可能となり、防災や減災に役立てることが期待できます」と語る。

 低コストで無線通信網を構築

 無線機のスイッチを入れるだけで使用できるWi-RANは、最大100kmの広範囲において毎秒9メガビットの無線データ転送が可能であり、またバケツリレー形式の多段中継技術によりその距離は更に延伸可能という特徴を持つため、莫大な設置費用がかかる基地局などを敷設することなく、様々な場所に低コストで無線通信網を構築できるメリットがあるという。しかし、9メガビットでは、毎秒12ギガビットを必要とする4K映像の伝送を行うことができず、環境のモニタリングなど社会インフラで使用するにはさらなる検討が必要だった。実際には4K映像の配信にデータ圧縮は不可欠であり、衛星放送などが毎秒30メガビット前後まで動画を圧縮して配信しているそうだが、Free-Dは毎秒3~5メガビットで配信することができる「高画質映像圧縮技術」(特許出願済)の開発に成功したのだ。

 このビットレートを川の流れに例えると、従来は大量の水を流すために川幅(配線の太さ)の広い大きな川が必要だったところを、同社は水量を(毎秒3~5メガビットまで)圧縮することで、細い川にも高品質の水(=4K映像)を流すことのできる技術を確立したのだ。

 この独自の圧縮技術が生まれたきっかけは、Free-Dを立ち上げる何年も前まで遡る。「世界初となる360度のVR映像を生配信する仕事があったのですが、とにかく映像データの重さに苦労しました。パソコンで受信しても動かすことができなかったんです。そこから『映像の画質を落とさずに圧縮できないか』という研究を始めていきました」(横内氏)

 技術は揃っている

 今後は、例えば近所の現在の様子など、個人ユーザーが知りたいピンポイントの情報をいつでも取り出すことのできる、パーソナライズされたインフラの構築などが目標になるという。同氏は「目指すのはそういうところです。実際にそういう使われ方をしないと全く意味がないと思っています」と希望を語る。

 5Gの普及に向けた整備も着々と進んでいるが、「自治体が5G向けの基地局を設置して、その後の使用料や維持費のことまで考えると莫大なお金がかかります。我々は低コストで4K映像を流すことができ、その仕組みを作る技術も揃っているので、あとは行政や企業と組んでサービス化することを将来的な展開として考えています」。

 Free-Dと京都大学は今後、共同で屋外伝送実験等を行い、圧縮映像とWi-RANの活用に向けてさらなる研究と開発を進めるという。

※1 《気候変動監視レポート2019 P.39》

https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/monitor/2019/pdf/ccmr2019_all.pdf

※2 気象庁「台風の順位:上陸数」

http://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/statistics/ranking/landing.html

 

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