テクノロジー

コロナ対策に大学のモノづくりを生かす 光触媒にレアアースも

 日本の大学が持つさまざまなモノづくりの技術や知見が、新型コロナウイルスに対抗するすべに生かされている。感染予防や公衆衛生といった医薬系分野に、放射線や材料などの工学系分野の研究者らも“参戦”。「必要は発明の母」の言葉通り、知恵を絞ったさまざまな製品が続々と生み出されている。(有年由貴子)

 空気中を漂う線香の紫煙が、装置の中に吸い込まれていく-。「コロナクリーナー」と呼ばれる装置で活用されているのは、日本人研究者が発見した「光触媒反応」という化学反応だ。

 触媒物質に光を当てると電気エネルギーが生じ、活性酸素が発生。この活性酸素が有機物を最終的に水と二酸化炭素に分解してしまう。光触媒反応は、過去にインフルエンザウイルスを不活化させる効果を確認した研究結果があるという。

 クリーナー内部には触媒物質を吹き付けたフィルターと発光ダイオード(LED)電球が取り付けられており、空気清浄機のように装置周辺の空気を取り込んでフィルターを通過させる。「空気を循環させることで、飛沫に含まれるウイルスを不活化できる効果が十分期待できる。会議中や教育現場、レジや窓口など接客の場面に活用してもらえれば」。装置を開発した大阪府立大放射線研究センターの秋吉優史(まさふみ)准教授はこう話す。

 実験では、高濃度の有害物質ホルムアルデヒドを1時間で35%減少させる効果が確認されたという。

 放射線安全管理が専門の秋吉准教授は4月、コロナ禍に対し「工学の観点から何か役に立てないか」と授業で用いる放射線計測用のパーツを組み合わせて装置を試作。学生らと約700個を手作りし、医療機関に無償提供するなどした。放射線の殺菌効果を研究する同大研究者らの協力を受けながら改良を重ね、完成にこぎつけた。

 企業とタッグを組んで一般に販売するほか、市場に流通するパーツで簡単に作れることから、使用部品を公開する予定だ。

 秋吉准教授は、紫外線のウイルス不活化作用を活用した装置「マスクリーン」も開発。「大学が持つ知見を生かせた。ウイルス研究に関わるとは思ってもみなかったが、違う発想から感染防止をバックアップしたい」と話す。

 モノづくりが盛んな大阪府東大阪市にある近畿大では、理工学部の西籔和明教授(複合材料製造学)らが地元町工場と連携し、「近未来型プラスチック製マスク」の開発を進める。肌に接触せず、眼鏡のように耳と鼻にかける構造で透明なため、口元を隠さず円滑なコミュニケーションが期待できるという。9月から地元の各機関に無償配布し効果を検証する計画で、西籔教授は「東大阪ならではの商品を提案したい」と意気込む。

 撥水性に優れたレアアース(希土類)と抗菌作用のある物質を組み合わせた新材料の抗ウイルス作用について研究している東京工業大の中島章教授(表面機能材料学)も、新材料を対コロナ製品に生かす取り組みを進めている。

 中島教授は「戦後日本を支えてきたわが国の工学は非常にレベルが高い」と指摘。「工学は、今までより良いものを生み出して人間を幸福にすることが目的の学問。コロナ禍のいま、材料や機械、情報など幅広いジャンルの工学研究者らがオールジャパンで知恵を出し合っていくべきときだ」と話している。

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